人生の続きを聖女として始めます
「それで……?オレが彼に会ってどうする?」

「陛下は体調を崩されて、少し弱気になっていますので……たった一人の身内に会いたいと思うのも当然かと……」

「しかし、存在するはずのない男が、外に出ては不味いだろう」

「それには十分に気をつかいますのでご安心を。我々(警務部)が情報を遮断し、レグルス様を完璧にお守りします」

そう言えば、バートラム・スタンフォードは警備や警務のトップだったな。
だが、どんなに彼が会いたがっても、警備が万全だとしても、オレにはどうしてもその気は起こらない。
不思議なことだが、会ったこともない兄弟よりも、ここのラ・ロイエのみんな、ひいてはマデリンやレーヴェ、子爵家の方がより家族だと思えた。
この件は早々に断った方がよさそうだと言葉を発しようとした時、バートラムが不敵に笑った。

「そうそう!ご結婚されたとか!?まずはおめでとうございます!」

「何でそれを……」

「まぁ、噂はどこからでも入りますからな」

……確かに、出入りする商人や、噂好きの民の口に戸は立てられない。

「御子様もいらっしゃるとか……未だ陛下には一人もいらっしゃらないというのに……全く、最初からこちらにしていれば……」

バートラムは途中からモゴモゴと言葉を濁したが、良からぬことを言ったのは何となく理解した。

「オレのことに口を出すな。お前には関係ない」

早く話を終わらせたい。
オレは心の底からそう思った。

「関係ないとは悲しい限り。産まれた御子様は王家の血を引いているのですよ?ならば、私が心配してもいいでしょう?」

「心配してもらう必要はない!あの子は王家とは関係ない!」

「ふふ。そう息巻いてみても、籠の鳥の貴方に何ができましょうか?」

バートラムはニヤリと笑い、スッと立ち上がった。
とうとう本性を現したな。
最初からどこかおかしいとは思っていた。
この男の策士紛いの駆け引きにも、心の底から感じる吐き気のするような雰囲気にも、どこにも共感は持てなかったからだ。
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