人生の続きを聖女として始めます
棺のような黒い馬車に揺られて、エルナダの首都に着くと、丈の長いグレーのローブを渡された。

「着て下さい。バレては困るでしょう?」

別に困りはしない、そんなのはそっちの都合だと言いたかったが、それが出来ないことはバートラムにはわかっている。
家族を人質に取られていては、何も出来ない。
何度も何度も手を出すな、と言いはしたが、バートラムは静かに微笑むだけで何も答えなかった。
それを確約して貰えるほど、今オレの立場は強くない。
悔しいが、言うことを聞くしかなかった。

馬車はやがて王宮に入り、オレは素直にローブを被り言われるまま歩いた。
すれ違う使用人が何事かと見はするが、眼光鋭いバートラムに恐れをなしてか、皆足早に通りすぎていくだけだった。
荘厳な作りの王宮の中を暫く歩き、ある扉の前でバートラムは足を止めた。

「暫くお待ちを」

そう言うと、その扉を五回叩きゆっくりと中に体を滑り込ませた。
耳を澄ませると、中から言い争うような声が聞こえる。
人数は3人ほどか……。
どうやら、オレがここに連れて来られたのはバートラムの一存だったようだな。
そう思った瞬間、扉はサッと開き、気持ち悪い笑顔のバートラムに「どうぞ」と言われた。

中には、初老の大神官長と、恐らく国務大臣だろう年配の女性がいて、オレを不審そうに見ている。
ここまで来て、彼に……兄に会わないという選択肢はないだろう、とオレはゆっくりとローブを脱いだ。

「………な、なんと……これは……」

「まさか……これ程似ているのか……」

大神官と国務大臣は目を見開いた。

「でしょう?これならば……」

これならば、とはなんだ?
バートラムに不審な目を向けたオレから視線を逸らすことなく、その後に続く言葉を遮ったのは、大神官長だった。
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