人生の続きを聖女として始めます
「だからと言って、そなたの考えは承認出来ない。陛下は彼を王家に縛り付けることを望まぬ!それに、疑惑は払拭されたわけではないぞ」

「同意する。君の考えは前獅子王陛下の意向にも反するし、そもそも、私は君は黒だと思っている」

国務大臣も大神官長を後押しした。
オレには何の話かサッパリだったが、この2人は信用出来そうだと、心の中で何かが告げている。
バートラムに感じたのとは全く逆の感情だ。
きっとこれは正しいんだろう。

「すまないが、兄の体調が優れないのは本当か?無理やり連れて来られて困惑しているんだが……会えるのか?」

オレは様子を窺いつつ声をかけた。

「おお………そのお声………」

大神官は言葉に詰まりながら、オレにすがり付いた。
そして、細く震える手でオレの手を掴み懇願した。

「どうぞ。もうあなた様が陛下のただ一人のお身内……会って下さいませ」

「わかった。案内してくれ……」

大神官の震える手を握り返すと、彼は深く頷きゆっくりとオレの手を引き歩き始めた。

兄のいる所は、ここから一つ向こうの部屋で、オレと大神官長はその重厚な扉を潜った。
そこには静かな静寂が広がっていた。
まるでここだけ別の世界なのか……と思うくらいに。
部屋の中央には荘厳で巨大な白い仕切りがあり、大神官はその仕切りをゆっくりと上げる。
そこには鏡があった。
………いや、鏡じゃない。
オレの横たわる姿が見えるが、それはオレじゃなかった。

「陛下……陛下………弟君がお越しでございますよ?どうか……目を……お開け下さいませ……」

大神官長は涙を堪えるように囁きかけた。
それに反応するように、彼……兄ルリオンは弱々しく目を開けた。

「兄……上か?」

恐る恐る声をかける。
兄などと、この世で口にすることはないと思っていたから妙に違和感があった。

「レ……グルス。来ては……いけない……」

「陛下!?」

ルリオンの発した言葉に大神官は、口を覆って驚いている。

「……ここ数日、陛下は眠りっぱなしで起きることはなかったのです!それが……」

なるほど、それでこの驚きようか。
だが、来てはいけないとはなんだ?
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