人生の続きを聖女として始めます

氷解

レグルスの話は、ゆっくりと2人の蟠りを溶かしていった。
彼のいなくなった理由。
子爵家の悲劇の真相。
それは、全てある男の陰謀が原因だった。

「オレは獅子王として王宮に帰り、君の亡骸を傍らに置いて、暫く部屋に籠ったよ。どうしても信じたくなくて……兵士や家臣には頭がおかしくなったと思われたが」

レグルスは自嘲気味に笑って更に続ける。

「でも都合が良かったんだ。これから始める凶行も、狂ったんだと思われてればやり易いからな」

「レグルス……あ、ごめんなさい。レグルス様……」

つい呼び捨てにしてしまい慌てて言い直す。
すると彼は見るからに不機嫌になった。

「何で言い直すんだ?そう呼んでくれていい。ずっと言ってたろ?」

「……うん。結局呼ぶことはなかったけどね……あの、ね?どうしてマデリンだってわかったの?こんなバカみたいな話、普通は考えないはずよね?」

「まぁな、特にオレはそういうの信じない方だから。だが、考え方はそうでも、体に染み付いた聴覚や嗅覚は騙せない。覚えているんだ、何もかも!」

はにかみながら笑う仕草。
それを、私も覚えていた。

「特別室でレグルスは、私を驚かそうとしたよね?」

「そしたら、君の足が絡まって……」

「ふふ、それで、あなたに助けられて。目の前にブルーの鮮やかなタイが見えたと思ったら、金色の瞳に覗き込まれたのよね」

彼と私を隔てていた溝に、その瞬間、一気に水が流し込まれたようだった。
水はあっという間に溝を埋めて溢れ、一緒に流れてきた土で溝を固める。
もう、隔てるものはない。
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