人生の続きを聖女として始めます
エスコルピオはゆっくりと膝を付き、寝台の縁で頭を垂れた。
その無防備になった首元にはいくつもの深いキズがある。
きっと背中や他の所にも数えきれないキズがあるんだろう。
それは、エスコルピオの贖罪。
全ては私への深い愛情の証なのだと思った。

「デュマ……仮面をとって……」

「いけません。この下にはおぞましく爛れた顔があります。お見せ出来ません」

くっと顔を上げ、エスコルピオは強く首を振った。
それでも私は仮面に手を伸ばした。

「私、母を亡くしてから父とあなたに育てられたのよ?そんなあなたの顔をおぞましいと思うなんてあり得ない」

「しかし……」

エスコルピオは反論しようとした。
だけど、私の意志が固いのを知って諦めたようだった。
そっと後ろに手を回し留め金を取って、鉄仮面をはずす。
躊躇いがちに動く手が止まると、そこには懐かしい顔があった。

「ほら……やっぱり。デュマの顔全然怖くない」

笑って手を伸ばすと、彼の半分潰れた目から涙が溢れた。
デュマが涙もろいなんて、エルナダに帰ってきて初めて知ったことだった。
兄のように母親のように優しく、いつだって後ろにいて助けてくれる。
そんな彼が、あの出来事で人生を歪め、感情を殺しながら人殺しをするなんて、考えただけでも胸が詰まる。
どんなに苦しかったか。
どんなに悔しかったか。
エスコルピオは……デュマは、それでも、レグルスとレーヴェを守り続けてくれたんだ。
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