人生の続きを聖女として始めます
「ありがとうバロンス。すっかりお世話になっちゃって……」
寝台から降り、床に足を付けながら言うと、艶のある見事な長い白髪を揺らせて、バロンスは穏やかに笑った。
「礼など結構ですよ。当然の事でございますから。それに、憎むべきスタンフォードの毒に私の解毒剤が勝ったのです。それは、悲願でしたから……」
「悲願……?」
「ええ。5年前、スタンフォードの毒に倒れたルリオン陛下をお助け出来なかった……一番側にいて一番信頼されていたのに、異変に気付くことが出来なかったのです。それから私は、王宮を去り独自に研究を重ね、自分の知識を磨きました。同じくスタンフォードの毒に苦しむ誰かの為に。それがルリオン陛下への弔いになると信じて」
「それで、私は助かったんだ……」
「ふふ。それもありますが、貴女自身の運の強さ、周りの貴女を思う気持ち、そちらの方がより解毒作用があったように思います。聖女様は偉大です」
目のシワを深くして、バロンスは私の手をとった。
そしてゆっくり引くと、一歩踏み出す私の様子を窺う。
「問題ないですか?」
「はい。バッチリです!明日からランニング出来そうです!」
「ばっちり?らんにんぐ?……ほう、聖女様のお国には、面白い言葉がありますな。また是非ご教授ください」
学者肌の人は、好奇心の塊なのかも知れない。
興味津々のバロンスは子供のように目を瞬かせ、私の手をぐっと握った。
「ジュリ!待たせたか?」
レグルスが息を切らせて医務室に飛び込んできた。
待たせたも何も……呼んでない。
さっき許可が出たところなのに何で知ってるんだろう、と考えてちょっと怖くなった。
「レグルス……ど、どうして今日ここを出ることを?」
「そろそろだと聞いていたからな。勘だ勘」
「勘が良すぎて恐ろしいよ……」
呆れて言うと、彼は楽しそうに笑い颯爽と私の体を抱き上げた。
「疲れてはいけないから。抱いていく」
結構です。鈍ってしまうので歩きたいです。
という言葉は喉元で消えた。
久しぶりのレグルスの腕の中は、暖かくて安心感に満ちている。
暫くこのままでもいいかな、と思えるほどに居心地が良かったのだ。
寝台から降り、床に足を付けながら言うと、艶のある見事な長い白髪を揺らせて、バロンスは穏やかに笑った。
「礼など結構ですよ。当然の事でございますから。それに、憎むべきスタンフォードの毒に私の解毒剤が勝ったのです。それは、悲願でしたから……」
「悲願……?」
「ええ。5年前、スタンフォードの毒に倒れたルリオン陛下をお助け出来なかった……一番側にいて一番信頼されていたのに、異変に気付くことが出来なかったのです。それから私は、王宮を去り独自に研究を重ね、自分の知識を磨きました。同じくスタンフォードの毒に苦しむ誰かの為に。それがルリオン陛下への弔いになると信じて」
「それで、私は助かったんだ……」
「ふふ。それもありますが、貴女自身の運の強さ、周りの貴女を思う気持ち、そちらの方がより解毒作用があったように思います。聖女様は偉大です」
目のシワを深くして、バロンスは私の手をとった。
そしてゆっくり引くと、一歩踏み出す私の様子を窺う。
「問題ないですか?」
「はい。バッチリです!明日からランニング出来そうです!」
「ばっちり?らんにんぐ?……ほう、聖女様のお国には、面白い言葉がありますな。また是非ご教授ください」
学者肌の人は、好奇心の塊なのかも知れない。
興味津々のバロンスは子供のように目を瞬かせ、私の手をぐっと握った。
「ジュリ!待たせたか?」
レグルスが息を切らせて医務室に飛び込んできた。
待たせたも何も……呼んでない。
さっき許可が出たところなのに何で知ってるんだろう、と考えてちょっと怖くなった。
「レグルス……ど、どうして今日ここを出ることを?」
「そろそろだと聞いていたからな。勘だ勘」
「勘が良すぎて恐ろしいよ……」
呆れて言うと、彼は楽しそうに笑い颯爽と私の体を抱き上げた。
「疲れてはいけないから。抱いていく」
結構です。鈍ってしまうので歩きたいです。
という言葉は喉元で消えた。
久しぶりのレグルスの腕の中は、暖かくて安心感に満ちている。
暫くこのままでもいいかな、と思えるほどに居心地が良かったのだ。