人生の続きを聖女として始めます
「バロンス、もう一度礼を言わせてくれ。ありがとう」

レグルスはバロンスへ向き直ると深く頭を下げた。
その行動に驚いたバロンスは、少し慌ててはいたけどゆっくり言葉を選んだ。

「……レグルス様。私はあなたにお会いできるような人間ではありません。本来ならここにいてはいけないとさえ思います。そんな私に、過分なお言葉、もったのう存じます」

「オレは……お前に会うことを避けていた。お前もそれを感じて身を引いたのだろう?会えばどうしても、あの燃える子爵邸を思いだしてしまう……だが、それはお前のせいなどではない。常に味方でいてくれたことに、本当は感謝してるんだ」

「レグルス様……」

「このまま、王宮に留まれ」

「は?いえ、私は今から帰ろうと……」

「許さぬ。国防大臣の職が空いているんだ。ガブリエラと対ならば、やはりお前が相応しい」

「いえ、レグルス様……あの……」

「異論はないな?実はお前の荷物ももう国防大臣室に持ってきている」

バロンスは唖然とした。
実際彼が復帰したいのか、そうでないのかはわからないし、今の暮らしに不満があるようにも見えない。
だけど、唖然とするなかで「全く仕方がない方だ」と呟いた言葉を、私もレグルスも聞き逃さなかった。

2人は向かい合って静かに微笑んだ。
物事が動き出すときは、歯車がカチッという音を立てて回りだすという。
一つが噛み合えば、隣の歯車が噛み合い、また隣というように連動して大きな動きになっていく。
レグルスと私、レグルスとレーヴェ、レグルスとバロンス。
孤高の王の周りで、次々に動き出す歯車がエルナダの未来を変えていく、これはその一つだ。
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