人生の続きを聖女として始めます
「……あの日のことを……私は今でも夢に見る」

ラスティはこちらを見て、大きな肩を少し震わせた。

「燃える屋敷と舞い上がる火の粉。それを背にした大きな樫木。樫木には人が吊るされていた……心優しく実直な人と、とても美しい女性が、だ……」

「はい……」

「マデリン様を下ろすとき、私が何を考えたかわかるか?」

ラスティは遠くを見た。
大神殿内で作業をしている神殿兵や取り仕切るヴィス、そして、レーヴェ殿下とエスコルピオ殿を。
そして、ゆっくりと言った。

「軽いな……そう思ったのだ」

「軽い?」

「そうだ。驚くほど軽かったのだ。人とはこんなに軽くなるものかと恐ろしくて震えた。失血も多く、背中には致命傷になった深い傷……か弱い女性に対する仕打ちにしてはあまりに酷い……そして、私は考えた。このように軽く、力もない女性を極めて陰惨な方法で殺すスタンフォードのやつらは……人ではなく悪魔だと……」

「……」

「近衛兵や親衛隊、その他兵士と違い、私達神殿兵は信心深い。神を信じ神に寄り添って生きるのだ。故に、あの出来事を引き起こしたバートラム・スタンフォードを多くの者が、悪魔と認定した」

なるほど。
ラスティの説明は、少なくとも私にとっては共感出来るものだった。
唯一事件関係者でない私にも彼の言い分は充分に理解できる。

「良くわかりました。神の名において、バートラム・スタンフォードという悪魔は退治しなければなりませんね」

「ああ」

私はラスティと顔を見合わせた。
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