人生の続きを聖女として始めます
それから一年が経つ頃には、私もレグルス様と軽口を叩き合うくらいまで仲良くなり、彼の置かれた状況、立場がぼんやりとわかってきていた。
レグルス・シエル・エルナダ、彼は産まれてきてはいけない、双子の王弟だった。
エルナダでは双子は凶兆とされている。
何代か前に王位を争った双子が、両方とも非業の死を遂げたことからそういわれるようになった。
そのためレグルス様も、存在を秘匿されここで「いないもの」として密やかに暮らしている。
今の王ルリオン陛下が健在ならば、レグルス様がここから出ることはない。
それが、嬉しいと思ってしまう自分の心の卑しさに時折私は酷く恥ずかしくなった。

更に一年後、私達はもっと親密になっていた。
お互いを良く知ることによって、自然と気が合うことがわかり、距離もどんどん近付いていく。
たまに離れていると、寂しいような不思議な気持ちになり、その特別な気持ちを持ってしまうことを私は自分の胸だけに秘めていた。

毎日、朝から夜まで、私達はずっと一緒に過ごした。
朝には私の焼いたパンを一緒に食べ、ティータイムには香り高いお茶と共にマドレーヌを。
レグルス様は私の作ったものを、いつも美味しそうに食べてくれた。
そして合間で交わされる言葉の数々は、大切な宝物になり積み重なる。
それは葡萄園の経営の話や小麦の収穫の話、夜空に浮かぶ星の話やほんのとりとめのない話であっても……どんな話にもレグルス様は詳しく助言をしてくれた。
とても勉強家の彼は、私が帰った後も一人で読書をしている。
どこからか運ばれてくる難しいたくさんの本を、レグルス様はあっという間に読んでしまっていた。
そのため、学校に行かなかった私の先生はレグルス様になり、特別室の難しい本の内容を分かりやすく教えてくれたりもしていた。
中でも一番気に入ったのは、予言者ラシャークの日記にあった、聖女様の話だった。
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