人生の続きを聖女として始めます
昼食後、レーヴェとエスコルピオと共に弓の練習場へと移動した。
現在、獅子王と主な兵は国境付近まで出兵している。
王宮に残っているのは国務大臣直轄の近衛隊、獅子王配下の親衛隊が半数だけで、練習場には誰もいない。
お陰で、レーヴェの練習はゆっくり出来そうだった。

練習場に置いてあった弓は、素材は違えども、部活で使っていたものと大差ない作りになっていた。
ただ、レーヴェが使うには少し大きすぎる。
そう思って辺りを見回すと、反対側の壁に掛けられた「あるもの」が目に入った。

「レーヴェ、ちょうどいい弓があるよ?」

私はそれを壁から取り、レーヴェに渡した。

「はい……あ、本当だ。大きいものより軽くて使いやすいです」

レーヴェは小ぶりで美しい装飾がされた弓を、カッコ良く構えたりして私に見せた。
でも……どうしてこんな小ぶりの弓があるんだろう?
エスコルピオにそれとなく目で合図を送っても「わかりません」と首を振るだけで、私ももう深くは考えないことにした。

「じゃあ、レーヴェ。頑張って的を目指そうね!」

「はいっ!がんばります!」

まず、私がお手本を見せ、それからレーヴェの基本フォームを修正しながら、矢を放つまでの動作を説明した。
優秀なレーヴェは、言ったことをすぐに覚え、矢を10本放つ頃には、的付近に届くまでになっていた。
練習場の的まではおよそ15メートルで、5才の子供が飛ばす距離にしては凄い!の一言に尽きる。
そしてやっぱり我が子は天才だと、親バカの私は思ったのである。

「うん!上出来!」

「……………………」

私の誉め言葉に、レーヴェはぷぅと頬を膨らませた。

「どうしたの?」

「的に、当たりません……」

どうやら、的にかすりもしないことが気に食わないみたいだ。
初心者でしかも5才児が、練習初日に的に当てようなんてふざけんな?といつもなら思うところだけど、可愛い息子にそんなこと言いません!

「みんな最初は当たらないものよ?私なんてレーヴェみたいに飛んでいかなかったし」

「ですが……」

レーヴェはまだ不本意そうな顔をしている。
私と比べてどれだけ優れているか、ということを伝えてもダメなのかもしれない。
彼には……きっと……。
< 56 / 238 >

この作品をシェア

pagetop