人生の続きを聖女として始めます
「彼は、既に先行する馬車で都へ行きました」

「………は?」

「もう帰ってくることはないでしょうが、あなた達の面倒はきちんと見ると仰っておりましたよ」

違う!そんなことじゃなくて、彼に会ってちゃんと彼の口から聞きたいの!
という言葉は、ついに私の口からは出なかった。
知っていたはずだ。
レグルス様は王家の人。
陛下に何かあれば、その代わりに呼ばれることもわかっていた。
でも、それでも、最後はレグルス様自身の口から別れを聞きたかったのだ。
唇を噛みしめ、俯く私に男は口の端を上げて軽く言った。

「それでは、マデリンさん。ごきげんよう」

踵を返しマントを翻し、男は颯爽と階段を降りて行った。

「あれはバートラム・スタンフォード侯爵、ルリオン陛下の側近で、国防大臣も兼ねている男だよ」

父が静かに言った。
だけど、そんなことはどうでも良かった。
レグルス様はここにいない。
きっともう会えない。
その事実だけで私は絶望に浸ることが出来た。

「ふぁっ……ふんぁぁぁぁー!」

「レーヴェ!!あ、ごめんね!ごめん!」

無垢な我が子の泣く声に、私は一気に絶望の淵から呼び戻された。
そうだわ。
レーヴェ、レーヴェのために、泣いてなんていられない。
この子には私しかいないのだから、なんとしても立派に育てなくては。
そう思うと、自然と体が熱くなった。

私は父を振り返り微笑んだ。
これからどんなことがあろうとも、負けない。
レーヴェのために生きていこう。
私と父は頷き合うとそっと階段を降りていく。
また、2人。
いえ、デュマもレーヴェもいるわ。
皆で共にこのラ・ロイエを管理しながら細々と生きていく。
それだけのことよ。
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