人生の続きを聖女として始めます

軍議

気が重い……。
こんなに気分が落ち込むのは、試合でミスった時か、テストの結果が悪かったとき以来だ。
執務室へ向かう長い廊下で、ひたすら重いため息を繰り返す私に、後ろに控えたエスコルピオが声をかける。

「大丈夫ですよ?何があろうとも私がジュリ様の盾になりますので」

彼はレーヴェをリブラに任せて、私に付いてきてくれている。
いつもなら一人でも大丈夫、と思うところだけど、この時ばかりはエスコルピオがいることが心強かった。

「………ありがと。でも、そういう物理的なことでなくてね……」

精神的なダメージのことよ?
と、心の中で付け足した。
昨日の私の態度を、獅子王が良く思うはずがない。
大好きなビクトリアを辱しめたんだから、きっと何か仕返しを考えているかも……。
そう考えて、またため息が出た。

ゆっくりと歩いたつもりが、執務室へはすぐについてしまい大きな扉の前で私は立ち竦んだ。
すると、廊下の向こうを、今日も麗しいガブリエラが手を振りながらやって来た。

「おはよう!ジュリ様!!」

「お、おはようございます。ガブリエラ。あの……私……」

「聞いてますよ?サウザー卿が軍議に参加を求めたんでしょう?」

ガブリエラは朝に相応しく爽やかに微笑んだ。

「はぁ、まぁ、はい。でも、場違いだと思うので、辞退したいんですけど……」

「場違いなんて。それを言えばロシュ坊やなんて、もっと場違いですよ?」

ロシュ坊や?

「全くいい歳をして落ち着きがない!軍議をお茶会と勘違いしている男ですからね……あ、ですからジュリ様も構えることなく、忌憚ないご意見を言ってくださって結構ですよ?」

「ガブリエラ、ロシュ坊やって……」

気になり過ぎて思わず聞いてしまった。
あの熊のような彼を坊やと呼ぶなんて、ガブリエラって一体どんな大物なんだろ?

「ああ!昔から知ってたのでね……つい。そんなことより早く入りましょう!!きっと陛下もお待ちかねですよ? 」

質問の答えもそこそこに、ガブリエラはサッと扉の取っ手に手をかけ笑った。
だけど、私は背筋がゾクッと震えるような感じがして身を縮こませた。
「お待ちかね」とはどういう意味の?
それ、飛んで火に入る……なんとかじゃないのー!?
という心の中の絶叫は、誰の耳にも届かずに虚しく体内で反響した。
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