嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
大丈夫か、と聞きたいのはむしろこっちの方だった。

元はと言えば、こんなに家計が緊迫しているのは、お母さんがあまりにもお人好しすぎるからだ。

未婚で私を産んだお母さんがずっと夢だった自分のお店をオープンさせたのは十年くらい前。それまで女手一つで苦労かけたから、私はお母さんの夢を応援していた。

昼間はカフェで夜はバーになる坪数の小さなその店は、世話好きでお人好しなお母さんを頼っていろんな人が集まった。

お母さんは娘の私の目から見ても、年の割には若く、気立てが良くて綺麗だ。
長年の客商売で培った経験によるものなのか勘が鋭く、感情の機微に敏感で困っている人を見過ごせない。

そんな母に、ろくでもない男性が擦り寄ることもしょっちゅう……だから苦労している。
肝心のカフェバーはというと赤字続きで、借金が膨れ上がっている。


「お母さん、今夜は一華の好きなハンバーグにするから。元気出して?」
「僕、二個ね!」
「本当にあなたには迷惑をかけて、すまないと思ってるのよ」


目尻に皺を寄せ、お母さんが目を細める。


「今、うちは一華のお給料でなんとか暮らしていけてるようなものだものね」
「や、やめてよ朝からそんなヘビーな話!」


なにより風太の前だし、私は暗くなりたくなくて努めて明るく言った。


「……僕、やっぱハンバーグ一個でいいや」
「子どもが気なんか遣わなくっていいの!」
「子どもじゃないし! 二年生だし!」


トーストをかじっていた風太が声を荒げる。
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