嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
彼はお母さんが再婚したお相手の連れ子だった。再婚してすぐ、まだ風太が三歳のときに実の父が病気で亡くなってしまって、以来うちで引き取って一緒に生活している。

小さい頃から寂しい思いをしてきたからか、まだまだ甘えたい盛り。
忙しいお母さんに代わって、大学生の頃から代わりにお世話をしてきた私にとって、かけがえのない存在。

風太には、不憫な思いをさせたくない……。

よし、と気合を入れて出社する。
クビになったらなったで、早いとこ再就職先を探そう。家族の生活のためだ、私が頑張るしかない。

よりによって社長に見つかっちゃうなんて、本当に運が悪かった。
その上、助けて貰っておきながら、しかも社則を破っておきながら帰り際に強気に出ちゃうし……。


「はあ、気が重い……」


そういえば昨日薫社長が言ってた〝落としどころ〟って、なんのことだろう?

就業のチャイムが鳴って、私は櫻葉株式会社の本社二階にある総務部のオフィスで、いつも通りパソコンに向かっていた。

更衣室で制服に着替えているときは、出社して間もなくクビを言い渡され、デスク周りを段ボールに詰めてるトホホな未来予想図を頭に描いていた分、平和な状況だった。

……課長が息をゼイゼイさせて、慌てて私のデスクに駆け寄るまでは。


「茅部さん、君、なにかした⁉︎」
「え!」


心あたりがありまくりな私は、びくりと両肩を跳ね上がらせる。


「部長が今すぐ会議室に来いって」
「ぶ、部長が……?」
「部長どころか、社長も来てるって!」


ついに来た、と思った。
心の準備はしていたものの、やはり激しく動揺してしまう。
私は椅子をガタつかせて立ち上がった。


「なんでも、茅部さんの人事の件だって! 今すぐ行って!」
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