嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
あわあわと身振り手振りを織り交ぜて指示する課長の勢いに、周囲の社員たちが何事かと注目する。
「人事…… ? は、はい……」
どんよりと鈍く、重い空気を漂わせ、私は暗い表情で回れ右をした。
オフィスを出る私に、同期の斉川詩織(さいかわしおり)が心配そうな目線を送っていた。
二年しか一緒に働かなかったけど、とても貴重な経験だった。
社会勉強にしては痛すぎる代償を払うことになってしまったけれど、二年間ボーナスも多かったし、詩織とも仲良くなれたしそれなりに充実していた。
短い会社員生活を走馬灯のように思い出してトボトボと歩いていると、会議室の前にたどり着いてしまった。
私は胸に手をあてて呼吸を整えると、ドアをノックする。
「失礼します」
恐る恐るドアを開ける。
「茅部一華さんだね、どうぞ」
半開きになったドアの向こうに最初に見えたのは、思いの外にこやかな表情の部長だった。
その隣には、パイプ椅子に長い足を組んで座る、薫社長の姿。
「待ってたよ」
ドアを閉め、強張った表情で入室した私を見て、薫社長は眉ひとつ動かさずに言った。
「は、はあ……」
私は肩をすくめ、上目遣いで両者を見た。
すると、腰を浮かせた薫社長はどこか億劫そうに溜め息を吐き、私と視線を交わす。
そして。
「率直に言う。君には俺と結婚してもらう」
揺るがない、強気な物言いだった。
「……は?」
対して私は、大層間抜けな顔だっただろう。
「人事…… ? は、はい……」
どんよりと鈍く、重い空気を漂わせ、私は暗い表情で回れ右をした。
オフィスを出る私に、同期の斉川詩織(さいかわしおり)が心配そうな目線を送っていた。
二年しか一緒に働かなかったけど、とても貴重な経験だった。
社会勉強にしては痛すぎる代償を払うことになってしまったけれど、二年間ボーナスも多かったし、詩織とも仲良くなれたしそれなりに充実していた。
短い会社員生活を走馬灯のように思い出してトボトボと歩いていると、会議室の前にたどり着いてしまった。
私は胸に手をあてて呼吸を整えると、ドアをノックする。
「失礼します」
恐る恐るドアを開ける。
「茅部一華さんだね、どうぞ」
半開きになったドアの向こうに最初に見えたのは、思いの外にこやかな表情の部長だった。
その隣には、パイプ椅子に長い足を組んで座る、薫社長の姿。
「待ってたよ」
ドアを閉め、強張った表情で入室した私を見て、薫社長は眉ひとつ動かさずに言った。
「は、はあ……」
私は肩をすくめ、上目遣いで両者を見た。
すると、腰を浮かせた薫社長はどこか億劫そうに溜め息を吐き、私と視線を交わす。
そして。
「率直に言う。君には俺と結婚してもらう」
揺るがない、強気な物言いだった。
「……は?」
対して私は、大層間抜けな顔だっただろう。