嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
「俺と結婚すれば、借金を肩代わりし、ご家族の今後の生活の安泰を約束しよう」


漠然と家族の笑顔を思い返していた私は、目の前に立っている薫社長の目を探るように見入った。


「け、結婚しなければ……?」
「そんな愚かな選択があるのか」


笑いを含ませる、失礼な口調だった。

え……。
これって、脅し……?


「君にとって有用な提案だと思うが」


声色を明るくし、やや口角を上げた薫社長はにっと微笑んだ。

とても綺麗な表情。女性じゃなくても美しいと形容されるのがこんなにぴったりな人って、ほかに見たことない。

そんな薫社長と、私が結婚なんて。

……ダメだ、全然想像がつかない。


「ど、どうしてそんなに結婚を急いでらっしゃるのですか?」
「それは、まあ追々説明していこう」
「は? えっとじゃあ、どうして相手が私なんです? 社長ならもっとほかに、すぐにでも喜んで結婚してくれる女性がたくさんいらっしゃるんじゃ……」
「そうだな」


いとも簡単に肯定され、私は拍子抜けする。


「だったら!」
「俺は今、女には興味ない。面倒なんだ」


私の言葉を遮るように早口で話し、薫社長は盛大な溜め息を吐いた。


「恋愛なんて益体も無いものにかける時間はない」


心底煩わしいと言わんばかりの横柄な態度に、私は軽く戦慄した。


「じゃあ私にも、興味はないのですね」


結婚するって簡単に言うけど、生理的に最低限許せるラインのこっち側にいる人とじゃないと無理だよね。

けれども元来、自分はおろか生物学上の女性自体に興味もない人と結婚なんて。

理解の境地を軽々超えるにもほどがある。


「さ、さすがに女性が好きでもない人と結婚なんて……」
「そういう感情は必要ないんだよ。契約結婚なんだから」


あたかも当然かのように畳み掛けられ、私は唖然とした。


「まあでも、面白そうな子だなとは思ったけど」
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