嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
私の顔を覗き込んだ薫社長は、睫毛を伏せてふっと微笑む。
「君は、俺が夫じゃ不満? それとも今、交際している相手がいるのか?」
ぽかんと口を開けていた私は、ついうっかり魅了されそうになってハッとした。
「い、いませんけど! む、無理です……!」
強引に身を翻し、歩き出そうとしたとき。
「きゃ!」
ヒールの先が焦ってつまずき、体をよろめかせた私は自分のおっちょこちょい加減を呪った。
「__おっと。」
転びそうになる手前、薫課長は首尾よく私の肩をそっと支える。
そして。
「昨日言わなかったか? 力では男に敵わない、と」
艶のある吐息交じりの声で、私の耳元に囁いた。
「……はっ……、離してください!」
不覚にも、至近距離にドキッとした自分が情けない。
……力ってなに?
腕力じゃなくて、権力のことなの?
助けてくれて優しいのか、自分の都合のために動くだけの非道な人なのか、よくわからない。
だから。
「わ、私には無理です……」
私は肩に置かれた手を振りほどいた。
薫社長が言ったことは当たってる。
私は結婚というものに全く夢がない。苦労している母親を近くで見ているから。
けど……。
いくら形ばかりの契約結婚でも、私のことを好きでもない人で、しかも大企業の社長だなんて身分が違いすぎる。
簡単に受け入れられる話じゃない。
うまくいくはずなんてない。
「だったら、仕方ないな」
先ほどよりも遥かに低い声で、薫社長は言った。
「君は、俺が夫じゃ不満? それとも今、交際している相手がいるのか?」
ぽかんと口を開けていた私は、ついうっかり魅了されそうになってハッとした。
「い、いませんけど! む、無理です……!」
強引に身を翻し、歩き出そうとしたとき。
「きゃ!」
ヒールの先が焦ってつまずき、体をよろめかせた私は自分のおっちょこちょい加減を呪った。
「__おっと。」
転びそうになる手前、薫課長は首尾よく私の肩をそっと支える。
そして。
「昨日言わなかったか? 力では男に敵わない、と」
艶のある吐息交じりの声で、私の耳元に囁いた。
「……はっ……、離してください!」
不覚にも、至近距離にドキッとした自分が情けない。
……力ってなに?
腕力じゃなくて、権力のことなの?
助けてくれて優しいのか、自分の都合のために動くだけの非道な人なのか、よくわからない。
だから。
「わ、私には無理です……」
私は肩に置かれた手を振りほどいた。
薫社長が言ったことは当たってる。
私は結婚というものに全く夢がない。苦労している母親を近くで見ているから。
けど……。
いくら形ばかりの契約結婚でも、私のことを好きでもない人で、しかも大企業の社長だなんて身分が違いすぎる。
簡単に受け入れられる話じゃない。
うまくいくはずなんてない。
「だったら、仕方ないな」
先ほどよりも遥かに低い声で、薫社長は言った。