嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
「は、はいっ」


私は返事をして、仲居の先輩である片山さんから日本酒が乗ったお盆を受け取る。
その途端に緊張で、両肩がびくんとつり上がったのを自覚した。〝奥のお座敷〟は、この店で一番のVIPルーム。

片山さんやほかの先輩からも、このお部屋を使われるお客様には絶対に粗相をしないよう、くれぐれも注意するようにと釘を刺されている。

バイトを始めて一ヶ月。
ほかの仲居さんが忙しいからっていうのもあるけれど、ようやくそこを任されるまで私も成長したってことみたい。

片山さんがキラリと眼光を鋭くして、そんな私を見守っているのが背中にひしひしと感じる。

き、緊張する……。

私はからくり人形みたいなぎこちない動きでひょこひょこ歩き、なんとか奥のお座敷の前までやって来た。


「し、失礼いたします」


声が裏返りそうになって、慌てて喉に力を込める。


「おお、やっと来たか」


部屋の中からお客様の声が聞こえ、私は膝をつき両手で襖を開けた。


「お待たせいたしました」


下げていた頭を上げる。
そこまではまだ及第点かなってくらい、なんとか落ち着いて出来たんだけど、お盆を持って立ち上がろうとした矢先、情勢が変わった。

お座敷にいたお客様の顔を見て、私はギョッと両目が飛び出るほど驚く。

う、嘘でしょ?
ヤバい……!

全身からすうっと、血の気が引くように感じる。
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