嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
「ごめんね、今まで黙ってて」
「そんな嘘、私が信じるとでも思う?」
ヘラヘラ笑う私に対し、対面する詩織の声は深刻だった。
「えっ……う、嘘じゃないって」
顔の前で両手をブンブンと振る私を見て、詩織は神妙な面持ちになった。
「……なにか、事情があるんでしょ?」
「っ詩織……」
入社して以来、なんでも話してきた。
家族のことも、恋愛のこともつぶさに。
その仲のいい同期が、こんな付け焼き刃的なシナリオを易々と信じるはずないんだ。
家族のために薫社長の口車に乗ったことを、家族には絶対知られたくない。
でも、親友とも呼べる詩織にまで、嘘を吐きたくない……。
じゃないと……。
誰かひとりだけに対してでも正直でいないと、胸が押し潰されそうだった。
嘘を吐いて、家族や世間を騙そうとしている罪悪感で。
私は聞き耳を立てる社員がいないか、周囲を隈なく確認してから詩織に真実を告げた。
「けけ、契約結婚⁉︎」
「しーしーっ! 誰かに聞かれる!」
私はとっさに詩織の口を押さえる。
「ご、ごめんごめん……! だってそういうのがまさか現実に起こり得るなんて思わなかったからさ!」
声を潜め、前かがみになって詩織は言った。頬が紅潮している。
「一華が、あの超イケメンと結婚ねぇ……」
ふーん、と目を波型に緩め、冷やかすような声で言う。
「ご家族の事情を踏まえると不謹慎かもしれないけど、なんだかちょっと羨ましいな」
「な、なに言ってんの⁉︎」
反射的に声のボリュームを落とし忘れ、私は慌てて首を引っ込める。
腰を浮かしかけていたことに気づき、目立たないように静かに椅子に座り直した。
「そんな嘘、私が信じるとでも思う?」
ヘラヘラ笑う私に対し、対面する詩織の声は深刻だった。
「えっ……う、嘘じゃないって」
顔の前で両手をブンブンと振る私を見て、詩織は神妙な面持ちになった。
「……なにか、事情があるんでしょ?」
「っ詩織……」
入社して以来、なんでも話してきた。
家族のことも、恋愛のこともつぶさに。
その仲のいい同期が、こんな付け焼き刃的なシナリオを易々と信じるはずないんだ。
家族のために薫社長の口車に乗ったことを、家族には絶対知られたくない。
でも、親友とも呼べる詩織にまで、嘘を吐きたくない……。
じゃないと……。
誰かひとりだけに対してでも正直でいないと、胸が押し潰されそうだった。
嘘を吐いて、家族や世間を騙そうとしている罪悪感で。
私は聞き耳を立てる社員がいないか、周囲を隈なく確認してから詩織に真実を告げた。
「けけ、契約結婚⁉︎」
「しーしーっ! 誰かに聞かれる!」
私はとっさに詩織の口を押さえる。
「ご、ごめんごめん……! だってそういうのがまさか現実に起こり得るなんて思わなかったからさ!」
声を潜め、前かがみになって詩織は言った。頬が紅潮している。
「一華が、あの超イケメンと結婚ねぇ……」
ふーん、と目を波型に緩め、冷やかすような声で言う。
「ご家族の事情を踏まえると不謹慎かもしれないけど、なんだかちょっと羨ましいな」
「な、なに言ってんの⁉︎」
反射的に声のボリュームを落とし忘れ、私は慌てて首を引っ込める。
腰を浮かしかけていたことに気づき、目立たないように静かに椅子に座り直した。