嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
「と、突然、なんだけど……」


緊張が声帯に現れる。声が裏返った。

しばらく沈黙が続いて、その間私の心臓の音だけがやけに周囲に響いてるような気がした。
お母さんの目を直視できなくて、これじゃあ動揺してるってバレバレだと思う。

お母さんに見透かされるんじゃないかという不安が大きくなったとき。


「そっか……おめでとう、一華」


とても穏やかな声色で、お母さんは沈黙を破った。
まるでこの日のために何年も使わずに大切にとっておいたような、優しい木漏れ日みたいなとびきり温かい眼差しで。

その瞳は揺れていた。


「今までずっと一華には家のことや手伝いばかりで不憫な思いをさせてしまって、本当に悪いと思ってるのよ」
「お母さん、そんな……」
「だから、世界一幸せなお嫁さんになって欲しいな」


語尾を弾ませたお母さんは、くるりと振り返り、そっと目尻の涙を拭いた。

泣かないでよお母さん、嘘なんだよ……。

親を裏切るなんて、胸が痛い。張り裂けそうだ。
こんな気持ちになるなら、寝ないで働いて借金を返した方がいいんじゃないかなって、また心が揺らぐ。

けど、もう……乗りかかった船だった。

手を洗って、私はハンバーグ作りを手伝った。焼き上がったハンバーグをいつものように食卓に並べて三人で食べた。すごく美味しかった。

赤い目をした風太はムスッとして、一言も喋らなかった。




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