嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
「薫社長、これは東北の地酒なんですけどとっても飲みやすいんですよ!」
ほら早く持ってきて、と硬直する私にちょっと怒ったような口調で付け足した、恰幅の良い年配のお客様の真向かいに座っている〝薫社長〟と呼ばれた若い男性に、見覚えがある。
いや、見覚えがあるどころか……雇い主、なんですけど!
「はっ、はい!」
私はなんとか平静を装い、急いでお盆をテーブルに運ぶ。
緊張と動揺で両手が震える。
すると、年配のお客様がその様子に気づき、口を斜めにした。
「おや、君は新入りかね。見ない顔だね」
「はい、不慣れなもので……申し訳ございません」
「いや、香山でこんなに若くて初々しい仲居を見るのは久しぶりだ。どれ、お酌してもらおうか」
「は、はい」
なんとか笑顔で応えたものの、取り繕いの張りぼて笑顔は少しでも気を抜くとヒビが入りそうだ。
早くこの場を離れたいのに、とヒヤヒヤする。
「し、失礼します」
年配のお客様に近づき、ガラスの徳利を傾ける。
冷酒が流れ落ちる瞬間、ぐらりとお猪口が揺れた。
「うわ、冷た……! なにをしている!」
冷酒が溢れ、お客様の手元に流れたと同時に、怒号が飛んだ。
「も、申し訳ございません、お客様‼︎」
私は咄嗟にテーブルの上にあったおしぼりを掴んだ。
とんだ失態に頭の中が真っ白になる。
「ああ、仕立てたばかりのスーツが台無しだ。どうしてくれるんだね」
「クク、クリーニング費用をお支払いいたしますので……!」
幾らだろう、高そう……。
さすがに〝弁償します〟と言う勇気はない。
なんとか染みにならないようにおしぼりで拭く私の腕を、年配のお客様がガシッと掴んだ。
ほら早く持ってきて、と硬直する私にちょっと怒ったような口調で付け足した、恰幅の良い年配のお客様の真向かいに座っている〝薫社長〟と呼ばれた若い男性に、見覚えがある。
いや、見覚えがあるどころか……雇い主、なんですけど!
「はっ、はい!」
私はなんとか平静を装い、急いでお盆をテーブルに運ぶ。
緊張と動揺で両手が震える。
すると、年配のお客様がその様子に気づき、口を斜めにした。
「おや、君は新入りかね。見ない顔だね」
「はい、不慣れなもので……申し訳ございません」
「いや、香山でこんなに若くて初々しい仲居を見るのは久しぶりだ。どれ、お酌してもらおうか」
「は、はい」
なんとか笑顔で応えたものの、取り繕いの張りぼて笑顔は少しでも気を抜くとヒビが入りそうだ。
早くこの場を離れたいのに、とヒヤヒヤする。
「し、失礼します」
年配のお客様に近づき、ガラスの徳利を傾ける。
冷酒が流れ落ちる瞬間、ぐらりとお猪口が揺れた。
「うわ、冷た……! なにをしている!」
冷酒が溢れ、お客様の手元に流れたと同時に、怒号が飛んだ。
「も、申し訳ございません、お客様‼︎」
私は咄嗟にテーブルの上にあったおしぼりを掴んだ。
とんだ失態に頭の中が真っ白になる。
「ああ、仕立てたばかりのスーツが台無しだ。どうしてくれるんだね」
「クク、クリーニング費用をお支払いいたしますので……!」
幾らだろう、高そう……。
さすがに〝弁償します〟と言う勇気はない。
なんとか染みにならないようにおしぼりで拭く私の腕を、年配のお客様がガシッと掴んだ。