嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
「あの、長瀬さん。今日は社長は?」


私は隣に立っている長瀬さんに聞いた。
薫社長は忙しすぎて、実は先日の社長室以来会ってない。電話番号も知らない。


「本日、社長は午後からお住いの方にいらっしゃいますよ」
「そ、そうですか……」
「本当は休日出勤の予定でしたが、茅部さんが引っ越して来るのでスケジュールを調整しました」
「はあ……」


それはお手数をおかけしました、と言いたいところだけど、やめておいた。
きっとまた、〝契約ですから〟と一蹴されるに決まっている。

長瀬さんも今日も仕事だったのかな?
長瀬さんは今日もスーツだった。

対して私は引っ越しだから掃除もするし、と思って動きやすい格好で来てしまった。
スキニーデニムに、白いパーカー。
場違いにもほどがある……。
恥ずかしすぎて、ずっと俯いていた。

薫社長の部屋に着き、引っ越し屋さんが荷物を運び、長瀬さんが挨拶をする。
そして。


「ようこそ」


扉を開け、私を迎え入れた。


「荷物これだけ? 少ないね」


空いている部屋へ私の荷物を運ぶ作業はすぐに終わり、長瀬さんも帰って行った。


「……社長のお宅はなんか、すごいですね」


自分の語彙力の無さに呆れるんだけど、本当にすごくて圧倒されて、言葉にならない。

目測じゃどのくらいなのか判別つかないけど、広いリビングに置かれた高級家具はすごくオシャレでセンスがいいし、テレビは映画館みたいに壁にくっついているし。
まるで、モデルルームに来たみたい。
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