嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
「一華、ちょっといい?」


コーヒーのお代わりでも、とキッチンに向かったお母さんが、私を見て小さく手招きをした。
私は薫さんと顔を見合わせてから立ち上がると、廊下に出たお母さんの後を追う。


「どうしたの? お母さん」
「一華、あなた……結婚って、私たちのためじゃないわよね?」


核心をつかれ、動悸が速くなった。


「借金取りがね、最近来なくなって。こないだまで本当は困っていたのよ、風太の学校にも現れるから」
「……うん」
「全額返済してくれたのは、あなたなの? 一華」
「そ、それは、櫻葉の顧問弁護士が債務整理を……」
「こんなこと言いたくないけど。どうして櫻葉さんが、うちにそこまでしてくれるのかしら」


これほどまでに深刻なお母さんの顔を見たことがない。
大きく見開かれた目は決して揺るがず、私を問いただすように見つめ続ける。


「一華、あなたが頼んだの?」
「お母さん……」


やっぱり、察しが良すぎるよ。
その勘の良さを客商売と人間関係にも活かせたら、苦労しないのにね。


「あのね、私」


やっぱり、親を欺くのは無理だと思ったのも束の間。


「お母様」


近づいてくる足音と、控えめに廊下に響く低音の声に、私とお母さんは同時に振り向いた。


「突然のことで驚かれたかと思います。私たちの結婚も、先程の提案も」


穏やかな声で言いながら、薫さんは私に寄り添うように隣に立った。


「ですが、私は結婚は家同士、助け合うことでもあると思っております。ですから」
「お母さん、私ね!」


拳を作ってギュッと握る。
言葉を中断させた私に、薫さんは驚いたような眼差しを向けている。
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