嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
帰り際、お母さんは花瓶に活けてあった花束を持たせてくれた。私が一番好きな、ピンクのかすみ草だった。


「綺麗だね、そのブーケ」


胸に抱くようにして持つ私を、薫さんは横目でちらりと見る。


「一番、好きな花なんです……」


玄関を出て私たちを見送ったお母さんは、車に乗ってからもずっと手を振ってくれていた。
夕日が眩しそうに細くなる目には、もう涙は浮かんでいなかった。すっきりとした晴れやかな笑顔だった。

対照的だったのは風太の方で、最後まで薫さんに心を開かなかった。
ずっと警戒しているような、なにかを察しているような面差しだった。


「冴えてたね、弟さん」


運転しながら、薫さんが可笑しそうに笑いを含んだ声で言う。


「お姉ちゃんを取られたくないって感じだったね」
「まだ子どもですから。寂しいのはあると思います……物心ついてから、ずっと一緒にいたので」


ちょっぴり感傷的な気分に浸っていた私は、流れてゆく黄昏の街並みを目で追いながら言った。


「弟でも、血の繋がりはないんだろ?」
「そうです」
「ふうん、ライバルってわけか」


ライバル……?
頭の中で復唱して、私は頭上に疑問符を浮かべる。


「どういう意味ですか?」
「まだ小学生かもしれないけど、どんどん成長するだろ。いつかは君を狙ってくるかもしれないし、男とみなすよ、俺は」


意味ありげに片眉にアクセントをつけ、横目をこちらに向けた薫さんとぱちんと目が合ってしまい、私はとっさに脇見をする。


「へ、変ですよ、それ……弟ですよ?」
「まあ、なんとしてもこの結婚を成功させる必要があるから、気は抜けないんだよ」
「……」


返す言葉がなかった。その通りだから。

薫さんの行動の全ては、グループの長という権力を得るため。

私は……家族のため。
他意なんてないのだ。
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