嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
◯
オフィスで一日の勤務を終えると、薫さんは本当に私を迎えに来た。
総務部の部長は、私との事情を知っている数少ない人物。
色めき立つ総務部のオフィス内で、ただひとり、社長の登場に動じていなかった。
少し距離を取ってざわざわする社員たちに囲まれる私を生暖かい目で見つめている。
もうひとり、こっそりと事情を知る詩織はというと。
「薫社長、生でこんなに近くで見たの初めて! めちゃくちゃカッコいいー!」
ほかの社員以上に興奮していた。
「更衣室で着替えますので、待っててもらえますか?」
「了解」
というなんの変哲もないやり取りも、社員たちは身を乗り出して観察している。
「お先に失礼します」
私は早くこの場を去りたかったので足早に更衣室に向かった。その後ろを薫さんがついてくる。
「総務部は女子が多いから華やかだね」
「……そうですか? 更衣室は女性専用なので入らないでくださいね!」
更衣室の前でぴたりと足を止めた私に、薫さんは臆面もなくこう言った。
「俺を誰だと思ってる。社長特権で入れるよ」
「それは職権乱用ですっ。大声出しますよ!」
キッと目を釣り上げた私を見て、きょとんとしたかと思ったら、すぐにハッと声を上げて笑う。
表情がいちいちどれもハンサムで、なんかすごいなって改めて感心してしまった。
万華鏡みたいに、パッと角度を変えて回すごとに総じて美しい表情が窺える。
どういう仕組みなのかわからないけど、見ているうちにもっとほかの表情もあるんじゃないか、って。
見てみたい、ってどんどん回す。欲深くなってしまう。
多少強引な質ではあるけれど、弱点などない、ハイスペックでこんなに素敵な男性のお嫁さんになりたいっていう女の子、きっとたくさんいるよね。
そう考えるたび、別に私じゃなくても……と卑屈にならずにいられなかった。
オフィスで一日の勤務を終えると、薫さんは本当に私を迎えに来た。
総務部の部長は、私との事情を知っている数少ない人物。
色めき立つ総務部のオフィス内で、ただひとり、社長の登場に動じていなかった。
少し距離を取ってざわざわする社員たちに囲まれる私を生暖かい目で見つめている。
もうひとり、こっそりと事情を知る詩織はというと。
「薫社長、生でこんなに近くで見たの初めて! めちゃくちゃカッコいいー!」
ほかの社員以上に興奮していた。
「更衣室で着替えますので、待っててもらえますか?」
「了解」
というなんの変哲もないやり取りも、社員たちは身を乗り出して観察している。
「お先に失礼します」
私は早くこの場を去りたかったので足早に更衣室に向かった。その後ろを薫さんがついてくる。
「総務部は女子が多いから華やかだね」
「……そうですか? 更衣室は女性専用なので入らないでくださいね!」
更衣室の前でぴたりと足を止めた私に、薫さんは臆面もなくこう言った。
「俺を誰だと思ってる。社長特権で入れるよ」
「それは職権乱用ですっ。大声出しますよ!」
キッと目を釣り上げた私を見て、きょとんとしたかと思ったら、すぐにハッと声を上げて笑う。
表情がいちいちどれもハンサムで、なんかすごいなって改めて感心してしまった。
万華鏡みたいに、パッと角度を変えて回すごとに総じて美しい表情が窺える。
どういう仕組みなのかわからないけど、見ているうちにもっとほかの表情もあるんじゃないか、って。
見てみたい、ってどんどん回す。欲深くなってしまう。
多少強引な質ではあるけれど、弱点などない、ハイスペックでこんなに素敵な男性のお嫁さんになりたいっていう女の子、きっとたくさんいるよね。
そう考えるたび、別に私じゃなくても……と卑屈にならずにいられなかった。