嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
帰り支度が済み、私たちは薫さんの外車で高級ブランド店に向かう。

会社を出るまですれ違う社員や部長クラスの上司たちにまで視線が痛いくらい注目されて、居心地の悪さといったら人生の中でダントツ一番だった。


「パーティーではもっとたくさんの人の前に立つことになる。今から注目を浴びることに慣れておかないとな」


運転しながら薫さんは、私の心を読んだようなことを言った。
周年記念パーティーは、高級ホテルのバンケットルームで社員や株主、取引先を招いて盛大に行うと聞いている。


「不安を煽るようなことを言わないでくださいっ」


きゅうきゅうとした声で私が言うと、薫さんはクッと堪えるように笑った。
からかって、楽しんでる風だった。


「大丈夫だよ一華は。堂々としてればいいよ」


と言い、車を停めると高級ブランド店に入った。
名前だけは聞いたことがある、有名な海外ブランド。
見るものすべてが眩くて、プライスカードの金額も桁違い。


「一華はこういうのが似合うんじゃない?」


店員さんに案内されて、夢見心地でやって来たドレスが並ぶコーナーで薫さんが一番最初に手に取ったのは真っ赤なドレスだった。

着丈が短く、ふわっとしたスカートのデザイン。背中は大きく空開いていて、リボンが可愛らしい、けど……。


「え! ちょ、ちょっと、華やか過ぎじゃないですか?」


私は店員さんがいる手前、はっきりと派手すぎるとは言えなかった。
しかも、露出がちょっと多すぎる。
地味な私には絶対似合わないタイプ。


「そうかな?」
「そうですよ! 私は個人的には、こういったデザインが好みです」


近くにあった、紺色のベロア素材のAラインワンピを手に取る。
首元にビジューがあしらわれていて、控えめな光沢感が素敵だった。
< 59 / 118 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop