嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
「は、はい……」


さ、さすが……カッコいい。

至近距離で見ると、とにかく整った顔立ちに圧倒される。
この危機的状況にも関わらず、ときめいてしまったほど。

彼は大手日用品メーカー櫻葉グループの御曹司、櫻葉 薫(さくらば かおる)。
弱冠三十歳にして櫻葉株式会社社長。
系列会社の社長であるお兄様との混同を防ぐため、周りからは〝薫社長〟と名前で呼ばれている。

若いのにやり手の社長で、しかもモデル並みにハンサムなもんだから社内外にファンを多く持っている。

高い鼻梁、形の良い唇、涼しげな二重まぶた。サラサラの黒髪はほどよくセットされていて、着こなしている細身のブランド物のスーツもとてもお洒落だ。

まるで、王子様みたい……。


「あ、ありがとうございます……」


私が手を握り返すと、薫社長は間髪入れずにグイッと引き上げた。

身バレしないよう顔を背けたつもりだったけど、そのとき一瞬無防備になって、はっきりと見えた。
片方の頬で意味ありげにクッと笑った、薫社長の表情を。


「どういたしまして、茅部さん」


……え?


「お客様、大きな声が聞こえましたけどどうかされましたか⁉︎」


ちょうどそのタイミングで片山さんがお座敷に駆けつけ、私が動転してうまく説明できない代わりに薫社長が誰も不利にならない程度にさらりと状況を語った。

お陰で大きな騒動にはならなかったけれど、木塚所長とかいう年配客はよろめいて歩くくらい憔悴していて、気の毒になるほど落ち込んでた。
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