嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
「あの」


私は薫さんのスーツの裾を、指先でちょんと掴んだ。


「い、いいんでしょうか……?」


こんなに高いドレス、私が購入してもらって、袖を通してもいいの?

私が婚約者で、いいんですか?

だって、昨夜。
拒んだのに……。


「……もっと、ほかのも着てみたかった?」


気を緩めたら涙が流れてしまいそうで、私は唇をギュッと噛んで首を振る。

俯いている私の手を取った薫さんは、それが小刻みに震えていることには触れず、素知らぬ顔で言った。


「結婚式のドレスを選ぶのも楽しみだな」


……それは、まだ私を契約妻として、雇う余地はあるということだろうか。

購入したドレスは箱に綺麗に収まり、紙袋は薫さんが持ってくれた。
ショップの外まで丁寧に店員さんに見送られ、私はこそばゆい気持ちで駐車場まで歩いた。


「あ。でも、周年記念パーティーと結婚式の前に、やるべきことがまだひとつ残ってたな」


何気なく思い出したように、薫さんが言った。

それは、私としてはできればパーティーと同じくらい避けたいイベント。
櫻葉家への挨拶。
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