嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
◯
十時を過ぎ、閉店作業をしてようやくバイトを上がる。
更衣室で着替えるとき、心に引っかかっていた疑問がひとつ解けた。さっき薫社長は、私が帯に挟んでいるクリップタイプの名札を見て苗字を呼んだんだ、と。
ホッとした。
まさか私が櫻葉株式会社の社員だと気づいたはずはない。
なにせ社員は数千人を超えるのだから。
さすがに総務部の平社員なんかの顔まで覚えてない、よね。
このバイトには生活がかかってるから、お座敷で鉢合わせたときは気が気じゃなかったけど、身バレなんて杞憂に決まってる。
「お疲れ様でした」
胸を撫で下ろしながら私は仲居の先輩たちに挨拶をして、香山をあとにする。
「お腹空いたな……」
ひとりごちて、とぼとぼと細い夜道を歩いていたとき、反射的に足が止まった。
一台の超高級外車が道端に停まっている。
車同士がギリギリすれ違えるほどの細い道で、夜の闇に黒光りする大きな車体は圧倒的な存在感を放っている。
「お店に来たVIPかな?」
私は踵を返そうかと迷う。
なんだか物々しくて近づき難い雰囲気だ。遠回りして帰ろう、と思った矢先。
「仕事、終わった?」
後部座席から、スーツ姿の男性が降りてきた。待ち合わせていた彼女に問いかけるような、軽めの調子で言いながら。
「……は?」
私、に話しかけてるのかな?
立ち尽くす私に相手が歩み寄るから自然と距離が縮まる。
そのお顔立ちが、朧げな街灯のもとに晒された瞬間。
「っ……!」
私の心臓はバクバクと駆け足状態に速くなる。
えっ、どうして……私⁉︎
あたふたと振り返ってみても、暗い夜道には人っ子ひとりいない。
十時を過ぎ、閉店作業をしてようやくバイトを上がる。
更衣室で着替えるとき、心に引っかかっていた疑問がひとつ解けた。さっき薫社長は、私が帯に挟んでいるクリップタイプの名札を見て苗字を呼んだんだ、と。
ホッとした。
まさか私が櫻葉株式会社の社員だと気づいたはずはない。
なにせ社員は数千人を超えるのだから。
さすがに総務部の平社員なんかの顔まで覚えてない、よね。
このバイトには生活がかかってるから、お座敷で鉢合わせたときは気が気じゃなかったけど、身バレなんて杞憂に決まってる。
「お疲れ様でした」
胸を撫で下ろしながら私は仲居の先輩たちに挨拶をして、香山をあとにする。
「お腹空いたな……」
ひとりごちて、とぼとぼと細い夜道を歩いていたとき、反射的に足が止まった。
一台の超高級外車が道端に停まっている。
車同士がギリギリすれ違えるほどの細い道で、夜の闇に黒光りする大きな車体は圧倒的な存在感を放っている。
「お店に来たVIPかな?」
私は踵を返そうかと迷う。
なんだか物々しくて近づき難い雰囲気だ。遠回りして帰ろう、と思った矢先。
「仕事、終わった?」
後部座席から、スーツ姿の男性が降りてきた。待ち合わせていた彼女に問いかけるような、軽めの調子で言いながら。
「……は?」
私、に話しかけてるのかな?
立ち尽くす私に相手が歩み寄るから自然と距離が縮まる。
そのお顔立ちが、朧げな街灯のもとに晒された瞬間。
「っ……!」
私の心臓はバクバクと駆け足状態に速くなる。
えっ、どうして……私⁉︎
あたふたと振り返ってみても、暗い夜道には人っ子ひとりいない。