嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
「一華!」
背後から私を呼ぶ薫さんの声が聞こえたけれど、すぐに招待客たちの談笑の声にかき消された。
私は小走りでパウダールームに向かう。シャンパンが付いた手を洗い、会場ではなく支度した部屋に戻った。
ドレスにも少し、染みができてしまったからだ。
キーを持っていないのでノックする。誰もいないかも……と諦めていると、中から返事が聞こえた。
「はい、お待ちしておりました」
部屋のドアが開く。
顔を覗かせたのは、長瀬さんだった。
「あ、の……待ってた、って?」
「今しがた社長からご連絡がありました。茅部さんがこちらに向かわれるかもしれないから、待機しているようにと」
「は、はあ……」
私の行動を先読みして手を回すのは、造作無いって感じだ。
私はドレスを脱ぎ、私服に着替える。
なんだか……夢から覚めた気分だった。
「ホテルのランドリーサービスを利用しましょう。シャンパンは綺麗に落ちると思いますよ」
いつもの、本心がまったく読めない能面みたいな笑顔で長瀬さんが言った。
『どうせ適当な子見繕ってって、長瀬にでも調べさせたんだろ? じゃないと俺に櫻葉のトップまで取られちゃう危険があるもんな。ま、いつも周りにいるような女とは違うタイプだけど、結構可愛いじゃん』
櫻葉邸での、芳樹社長の言葉を思い出す。
この際だから、全てはっきりさせておきたかった。
「長瀬さん、どうしてあの日、香山にいらしてたんですか? 最初から木塚研究所と業務提携するつもりはなかったんですよね?」
長瀬さんは表情ひとつ変えず、部屋の隅に立ち悠然と私を見ている。
「私のこと、調べてたんですか?」
「はい」
あっけらかんと、長瀬さんは頷いた。
背後から私を呼ぶ薫さんの声が聞こえたけれど、すぐに招待客たちの談笑の声にかき消された。
私は小走りでパウダールームに向かう。シャンパンが付いた手を洗い、会場ではなく支度した部屋に戻った。
ドレスにも少し、染みができてしまったからだ。
キーを持っていないのでノックする。誰もいないかも……と諦めていると、中から返事が聞こえた。
「はい、お待ちしておりました」
部屋のドアが開く。
顔を覗かせたのは、長瀬さんだった。
「あ、の……待ってた、って?」
「今しがた社長からご連絡がありました。茅部さんがこちらに向かわれるかもしれないから、待機しているようにと」
「は、はあ……」
私の行動を先読みして手を回すのは、造作無いって感じだ。
私はドレスを脱ぎ、私服に着替える。
なんだか……夢から覚めた気分だった。
「ホテルのランドリーサービスを利用しましょう。シャンパンは綺麗に落ちると思いますよ」
いつもの、本心がまったく読めない能面みたいな笑顔で長瀬さんが言った。
『どうせ適当な子見繕ってって、長瀬にでも調べさせたんだろ? じゃないと俺に櫻葉のトップまで取られちゃう危険があるもんな。ま、いつも周りにいるような女とは違うタイプだけど、結構可愛いじゃん』
櫻葉邸での、芳樹社長の言葉を思い出す。
この際だから、全てはっきりさせておきたかった。
「長瀬さん、どうしてあの日、香山にいらしてたんですか? 最初から木塚研究所と業務提携するつもりはなかったんですよね?」
長瀬さんは表情ひとつ変えず、部屋の隅に立ち悠然と私を見ている。
「私のこと、調べてたんですか?」
「はい」
あっけらかんと、長瀬さんは頷いた。