嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
「一華、そのメロン、食べないの?」
一向に手を付けない私のロールケーキを狙って、詩織が向かい側からフォークを伸ばす。
しょうがないなぁ、と吹き出したときだった。
「__っ」
息を吸うのを忘れた。
この席からロビーの様子はよく見える。
入り口から入ってきたときから、私の目は並んで歩く二人組をはっきりと捉えた。
時間差で激しく噎せてしまい、私は口元を手で覆う。
「一華? ちょっと、大丈夫?」
それでも、どんなに苦しくても、その二人組を見つめるのを止められない。
向こうは相手との会話に夢中で、こっちになど気づいてもいない。
彼らはロビーを縦断し、真っ直ぐにエレベーターに向かって歩いている。
「ご、ゴホッ……」
「どうしたの? 一華、お水飲む?」
そばに来て、背中をさすってくれた詩織が、頑なにそらせないでいる私の目線を不意にたどった。
「え? あれってもしかして……薫社長?」
見間違えるはずなんてない。
傍らには、彩月さんの姿。
「隣の人は誰かな? 会社の人?」
独り言みたいな詩織の言葉に、私はかぶりを振った。
水滴が目尻の方に流れる。自分が泣いてること気づいた。
「あの女の人は、今度、一緒に研究開発する人だって。薫社長の幼なじみ。許嫁で、忘れられない人みたい……」
私は胸を押さえた。
心を蝕む翳りが、ヒビ割れた傷口にヒリヒリとしみて痛い。
「一華は、社長のことが本気で好きなのね?」
報われない。
不毛だ、と思う。
「う、ん……」
薫さんに対する胸の高鳴りはただの、男性に対する免疫のなさだとか、社長と素顔のギャップに驚いているだけではないと気づいてしまった。
一向に手を付けない私のロールケーキを狙って、詩織が向かい側からフォークを伸ばす。
しょうがないなぁ、と吹き出したときだった。
「__っ」
息を吸うのを忘れた。
この席からロビーの様子はよく見える。
入り口から入ってきたときから、私の目は並んで歩く二人組をはっきりと捉えた。
時間差で激しく噎せてしまい、私は口元を手で覆う。
「一華? ちょっと、大丈夫?」
それでも、どんなに苦しくても、その二人組を見つめるのを止められない。
向こうは相手との会話に夢中で、こっちになど気づいてもいない。
彼らはロビーを縦断し、真っ直ぐにエレベーターに向かって歩いている。
「ご、ゴホッ……」
「どうしたの? 一華、お水飲む?」
そばに来て、背中をさすってくれた詩織が、頑なにそらせないでいる私の目線を不意にたどった。
「え? あれってもしかして……薫社長?」
見間違えるはずなんてない。
傍らには、彩月さんの姿。
「隣の人は誰かな? 会社の人?」
独り言みたいな詩織の言葉に、私はかぶりを振った。
水滴が目尻の方に流れる。自分が泣いてること気づいた。
「あの女の人は、今度、一緒に研究開発する人だって。薫社長の幼なじみ。許嫁で、忘れられない人みたい……」
私は胸を押さえた。
心を蝕む翳りが、ヒビ割れた傷口にヒリヒリとしみて痛い。
「一華は、社長のことが本気で好きなのね?」
報われない。
不毛だ、と思う。
「う、ん……」
薫さんに対する胸の高鳴りはただの、男性に対する免疫のなさだとか、社長と素顔のギャップに驚いているだけではないと気づいてしまった。