嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
櫻葉グループは化粧品やボディケア用品などを扱うビューティー部門と、衣料品洗剤や食器用洗剤などを扱うファブリック部門に別れていて、私はファブリック部門を扱う会社である櫻葉株式会社の総務部社員。
大卒の一般職で、お給料はそれなりに貰っている。

まあ、奨学金の返済と生活費を引けば、全然残らないんだけど……。


「就業規則は知っているね?」
「は、はい……」
「このままじゃ、うちの会社ではもう、雇えないということになるけど」
「!」


薫社長の冷たい声に、肩が大きく揺れた。


「理由を正直に話してくれたら、落としどころを見つけることも可能だ」


お、落としどころ……?
それは、お互い話し合って、うまいこと見逃してくれるってことだろうか?

項垂れていた私がゆっくりと顔を上げる様子を、薫社長が真顔で見つめている。


「借金でもあるのか?」


控えめに目線を上げる。
薫社長は引き締まった表情で私を見返した。

ただの平社員の家庭の事情なんかにこんな風に真剣に対応してくれるなんて。
つい甘えて寛大な措置を期待してしまう。


「実は……」


私は観念し、膝の上で両手を握る。


「お恥ずかしい話なんですが、母の飲食店の経営が傾いておりまして。弟がまだ小学生なものでこれから進学の費用もかかりますし、なにより生活が不安定なので私がもっと働いて稼がないとと思っていて……」


大会社の社長にこんな超個人的な侘しい事情をしているのが、あまりにも非現実的な気がした。
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