嫁入り契約～御曹司は新妻を独占したい～
胸の奥に熱く込み上げてくるものがあって、私はそれをなんとか堪える。


「……私は、大丈……」
「もう少しでシチューができるから、風太呼んできてちょうだい」


気分を変えるように、一際明るい声で言ったお母さんは、私が使っていた和室の方に目をやった。


「うん……わかった」


これ以上なにも聞かないでもらえて、助かったと思った。
きっとお母さんは知ってて……話せないことを。気持ちを汲んでくれたんだと思う。


「ありがとう、お母さん……」


台所は、甘いホワイトソースの香りで充満していた。
私はちりちりと痛む胸をその温かい香りで癒すように、大きく深呼吸して胸いっぱいに吸い込んだ。


「風太ー、ご飯できたって」


襖を開けて覗くと、畳に寝そべってひとりカードゲームをしていた風太が目を丸くした。


「お姉ちゃん、なんでいるの？」
「なんでって……帰ってきたから。」
「、へー」


風太は特に感動もない、平坦な調子で言った。
そして立ち上がると、スタスタと歩いて台所に入って行って、食器棚から自分でお皿やスプーンを出した。


「……照れてるの、かな？」


前向きに捉えて、複雑な年頃の弟と、久しぶりに食卓を囲む。
ほくほくのお芋とか、溶けそうな玉ねぎとか柔らかい鳥肉とか、うちの使い古したホーローの鍋で煮込むとなぜか美味しい。
最新家電が揃った、システムキッチンでの調理も楽しかったけど……。

今のひび割れた私の心を埋めてくれるのは、家族の温もりなのかもしれない。

私がいるから、夜の時間はいつもは人に任せているバーに出勤できると意気込んで、お母さんはシチューを食べると家を出て行った。
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