嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
夕飯を食べ終わったあと。


「風太、宿題わからないとこあったらお姉ちゃんに聞いてね」


私は後片付けをして、洗った茶碗を拭きながらリビングにいる風太に呼びかける。
バラエティー番組を見ながら、漢字練習ノートを開いている風太の右手に握られた鉛筆の動きは完全に止まっている。


「風太ーテレビ消したら? そろそろ終わらせないとお風呂入る時間なくなるよ⁉︎」


テレビに釘付けだった風太はふっと目をそらし、ぱちくりと瞬きをして私を見た。


「お姉ちゃん、お母さんそっくり……」
「なにそれ、どこが?」
「言い方とか、今のその顔とか」
「え!」


反射的に自分の顔に触れたとき。

ピンポーン……と、間延びした家のチャイムが鳴った。


「誰だろ、こんな時間に」


私はお母さんから借りていたエプロンを外して玄関に向かう。


「はーい」


インターホンがないから、ドアスコープを覗くも門灯がないので暗くて誰だかよく見えない。
もう一度チャイムが鳴ったので、不審に思ったけど急かされてる気がして私はドアを開けた。

そして、絶句する。


「一華」


ドアの向こうに立っていた人物は憮然とした表情で、不服そうに言った。


「落ち着いたら、食べたいものをなんでも作ってくれるんじゃなかったのか」
「か、薫さん……」


足がすくむ。
まさか、実家にまで来ると思ってもいなかった。それもひどく不機嫌そうに。

その表情から、私を迎えに来たわけじゃないってことはすぐに判断できた。裏切った私を、非難するために来たんだ。

そうでしょ?


「長瀬が渡した契約書は読んだんだよな?」


張り詰めた声に、私は肩をビクッと上下させる。
すっかり他人行儀みたいだ。
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