ポルターガイスト~封じられた扉~
そんな時だった。


「亜香里お嬢様!」


そんな声が聞こえてきて、あたしは足を止めて振り向いた。


家政婦さんがあたしと同じように片手にライトを持ち、走って来るのが見えた。


「こんな時間にどこへ行くんですか?」


あたしの横に立った家政婦さんは、肩で大きく呼吸をしながら聞いて来た。


ずっと走って追いかけて来たみたいで、額には大粒の汗が滲んでいた。


「えっと……ちょっとそこまで」


あたしは視線を泳がせて答えた。


どこへ行くのかなんて、考えていなかった。


ただ星空の下を走っていると、とても気分が良くてどこまででも行けそうな気がしていただけだった。


だけど、振り向いてみるとまだ屋敷が見える場所に立っていた。


胸いっぱいに感じた解放感は幻のようにしぼんでいく。


「そうですか。じゃあ、私もちょっとそこまで」


ようやく呼吸が整った家政婦さんがそう言うと、あたしの手を握りしめて歩き出した。


ゆっくりゆっくり、まるで地面の感触を楽しむように。

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