私が王子の彼女役? (365枚のラブレター もう1つの恋)
「俺は、クララが戻ってくるように協力をする
舞は、クララが戻ってくるまで
俺の彼女役!
それでいいよな」
「はい
エイト様、ありがとうございます」
「舞は俺より二つも年上だろ
敬語はやめろよ」
「でも……」
「それに、彼女役なんだから
様つけて呼ぶなよ
エイトでいいよ」
「魔法界の王子を呼び捨てにしたら
親に家から追い出されそうだし」
「じゃあ
この契約をやめにするか?」
契約をやめる??
それは困る!
11か月
クララのために通い詰めた魔法界
はじめて希望の光が差し込んだのに
この光を消していいはずがない!
「エイト……これでいい?」
「ああ!上出来!」
エイトは、私の頭をワシャワシャなでると
はじける笑顔を私に向けた
ドキッ!
急に私の心が飛び跳ねた
エイトって私より2つも年下なのに
そんな大人びた顔をするんだ
女子たちが『エイト様!』って
キャーキャー取り巻く気持ちが
わかる気がする
「舞、彼女役をするのに
2つ約束して欲しい
一つ目
毎日30分、俺と過ごすこと」
「うん」
「そして2つ目
俺のことは絶対に
好きにならないこと!」
もうすでに
エイトの魅力にちょっとだけ
ドキッとしちゃったけど
魔法界の王子と私が結ばれるわけがない
それに私も
高校を卒業するまで恋はできないし
選ぶ相手も条件がある
これ以上
エイトを好きにならないようにしなくちゃ!
「エイト、わかったよ
2つの約束を守るから
クララのことよろしくね」
「じゃあ本契約ってことで
お前にこれをやる
今つけてやるから」
私の背中側にまわったエイトの髪が
私の頬に触れた
この髪の匂い
なんて落ち着くんだろう
「できたぞ!」
「エイト…これって…」
私の胸元には
エイトの髪や瞳と同じ濃い紫色で
親指の爪くらいの大きさの石が
ユラユラ揺れていた
まるで
キラキラ光る
紫水晶見たい
「綺麗だろ!
俺の髪と同じ色の石がはめ込まれた
ネックレスだからな
大事にしろよ!」
「でも、こんなのもらえないよ」
「この色は
魔法界で俺だけが使っていい色なわけ
ネックレスをつけてるだけで
お前は俺の物って言ってるようなもんなの」
『お前は俺の物!』
その言葉に
また胸が跳ね上がってしまった
ダメダメ!
さっきエイトと約束したでしょ!
エイトのことを、好きにならないって!
「大事に…する…」
「やべっ!もうこんな時間じゃん
今日は女子たちにつけまわされて
帰りが遅くなったからな
俺さ、毎日スケジュール詰まってんの
自由な時間が
学校帰ってからのこの30分しかないわけ
舞、明日も今日と同じ時間に
ここに来いよ」
「わかった」
「絶対だからな!また明日な」
エイトはそう言うと
呪文で魔法界の扉を開け
私に白い歯を見せて笑うと
城の中へ入っていった
予想外のことがピューピュー起こりすぎて
現実なのか夢なのか
脳が判別不能状態
でも
夕日でキラキラ光る紫の石が
現実なんだよと教えるように揺れている
「とりあえず
家に帰って落ち着こう」
私はいつものように
高さが30メートルほどある
青々と茂ったクスノキに抱きつくと
木の幹にあるドアを開け
グルリングルグル滑り台で
人間界へ戻った
「舞、帰りが遅かったじゃない!
魔法界でなにかあったの?」
「べつに…
ちょっと魔法界を散歩してただけ」
家に帰ると
洗濯かごを抱えたお母さんが玄関までやってきた
さすがお母さん!
いつもと違う私の表情を鋭く察知したんだ!
ごまかさなくちゃ!
だって
エイト王子の彼女役になったなんて
お母さんに言えないし
お母さんの横をさっとすり抜け
タカタカ階段を駆け上がり
自分の部屋のベッドにバサッと倒れこんだ