篠田くんの取扱説明書
カバンを持って桃奈ちゃんのもとへ戻る。
中庭のベンチに座っている桃奈ちゃんは…ずいぶん小さく見えた。
「桃奈ちゃん」
「……」
声をかけても、顔をうつむかせたまま動かない。
聞こえてるはずだけど、たぶん顔を見せたくないんだろう。
「桃奈ちゃん」
桃奈ちゃんの隣にカバンを置くと、
黙ってカバンを持って、うつむいたまま立ち上がった。
「先輩、ありがとうございました」
ペコ、と深く頭を下げて、桃奈ちゃんは目を合わせないまま歩き出す。
「待って、桃奈ちゃん、
送るから…」
「……1人で大丈夫です。
ていうか、1人がいいので」
また頭を下げると、俺に背を向けて歩いていってしまった。
去っていく桃奈ちゃんの背中は、ひどく小さく見えて。
放ってはおけないけど、桃奈ちゃんが1人が良いと言うから…。
……俺は、その背中を見つめることしか出来なかった。