嘘つきな恋人
「椿といい、ほのかといい、
我が家の子供達はよっぽどこの家が好きらしい。」
ハハッ、と渇いた笑い声をあげながら
父は仏壇で微笑む母の写真を見つめた。
ミコさんはそんな様子を見ながら
「さくらさんはさぞお喜びでしょうね」と
懐かしい表情を浮かべた。
決して悲しいお話なんかじゃない。
母は私が五歳の頃にこの世を去った。
昔から心臓が悪かったらしく、
母より1回りも年上の父は
母の主治医の下で学ぶ研修医として出逢ったそうだ。
繰り返し聞かされたそんな恋のお話は
いつの間にか私の中で憧れになっていた。
「…へぇ、まだほのかは嫁にいく気もないわけだ。」
久し振りに聞いたその声に
思わず血液が逆流するような、
肩に力が入るような、変な緊張感に包まれる。