嘘つきな恋人
「椿、兄さん…?…いつ…?」
すっかりリラックスしたその格好。
相変わらず目に触れそうな前髪を
指先で掻き分けるとフッと小さな声を上げた。
「昨夜遅くに、ね。
カナダは寒いよ、食べ物も…
やっぱり日本が…あぁ、ミコさんの料理が一番。」
二年間も空きっぱなしだったその席に、
ドサリと身体を落として座る。
「まぁまぁお上手」なんてミコさんが笑いながら
椿兄さんの前に用意してあった朝食を並べた。
「そうじゃなくて!いつ戻ったの?」
「昨夜遅くにね。ほのかはいびきかいてたから、
起こしちゃ悪いと思って。」
「なっ、何それ…
戻る事を教えてくれても良かったのに…」
「はいはい、悪かった。
カナダ土産、あとで部屋に取りに来いよな。」
フハッと吹き出し笑いをした後に
私の頭にポンと手を乗せた。
美月 椿。私の兄。血の繋がらない、兄。