偽装恋人などごめんです!
「やっぱり無理。こんなお嬢様みたいな格好、似合わないし、したくない!」
「野乃? 気に入らなかったのか? だったら違う服を……」
「佑さんならどんな女の人にでも、頼めるでしょう? もっとこの服が似合う人に頼みなよ!」
「ちょ、野乃、待てって」
車を降りて、追いつかれないように急いで駆け出した。
“お嬢様”の型にはめられるなんて冗談じゃない。
こんな服で、楚々としてるの私じゃないよ。
佑さんがそれを望んでも、私は私以外にはなりたくない。
怒りの勢いで、しばらくは走り続けられたけれど、慣れないピンヒールは私に優しくはない。
結局、直ぐに転んでしまい、ペールピンクのワンピースには、すりむいた足からの血がついた。
「いったぁ」
「野乃! 大丈夫か?」
あっさり追いついてくる佑さん。
足の長い男はこれだから嫌だよ!
彼は怒ったような表情のまま、私を両腕に抱き上げる。
「きゃっ、ちょ、佑さん離して!」
「駄目だ。怪我したんだろ」
そのまま有無を言わさず車に突っ込んだ。
「ちょ、降りる。下ろして!」
「大丈夫、野乃の部屋に行くだけ」
「本当ですか?」
「怪我の手当てをしなきゃだろ?」
佑さんは怒っている。当たり前だ。
だけど私だって怒っている。
彼女のふりなんて、人に頼むことじゃないんだよ。
佑さんの好みはこんな女の人なのかと思ったら、苦しくてむしゃくしゃして堪らなかった。
普段の私なんて、全然彼の好みから遠い。