偽装恋人などごめんです!
「だからあの時お腹鳴ってたんだ」
「そう。食ってから家出すればよかったと思った」
そんな理性的な家出、嫌だよ。つか、そこで冷静にそんな計算できてたら、家出なんかしない、多分。
お腹が減ったと言われて、当時の健気な私は一生懸命おにぎりを作った。お母さんがやっていたみたいに、ラップにお塩振って、その上にご飯を乗せて、小さな手で一生懸命握った。
そうして渡したおにぎりを、佑さんは食べたとたんに咳き込んだ。
『どうしたの? おいしくない?』
『いや? 斬新だけど思ったよりイケる』
『ザンシンって何……』
子どもながらに嘘をつかれているのが分かって、脇からがぶりとかぶりついた。
そうしたら、なんだかすごくスパイシーな味だったんだよね。
改めて台所を見に行ったら、私が使った調味料は塩じゃなくて塩コショウだった。
うちでは、調味料の外観を統一したいと、母親が瓶を詰め替えているから、見間違えてしまったのだ。
しゅんと落ち込んだ私に、佑さんは笑った。
笑ったまま、時折私の口にそのスパイシーなおにぎりを突っ込んで。
結局ふたりで分けっこしながらおにぎりを食べきった。
「うん。うまかった。忘れられないおにぎりになったな」
「今度はもっと上手に作るね。お料理したの、はじめてだから。だから間違っちゃったんだもん」
恥ずかしくて悔しくて、一生懸命弁明して。
「うん。楽しみにしてる」
だけど、それを佑さんが優しい目で見ていたもんだから、幼いながらに胸がドキドキして堪らなくなった。
これが私が佑さんを好きになったきっかけだったりするんだよね。我ながらおませさん。