偽装恋人などごめんです!

そのあとすぐ、お母さんとお姉ちゃんが帰ってきて、佑さんは家に強制送還された。

八歳も歳が違う私たちに、おにぎりをふるまうタイミングなどその後訪れるはずもなく。
結局、その約束は果たされることはなかった。

でも、一度自覚すると恋ってやつは加速するもので。
道端で会って話をするだけで、佑さんが好きだなって何度も何度も思ってしまった。

お姉ちゃんと付き合ってるのかなって頃は、私も大学生になっていたし、身近にいる人が良く見えたりしていたけど。
こうして再会すると思い知らされる。
こんなにドキドキするのは、やっぱり佑さんだけだ。

……だけど、私はありのままの私を好きになってほしいんであって、こんな着せ替え人形になりたいわけじゃないんだよね。ましておじさんおばさんを騙すのも、できれば避けたいし。


「あのね」

「うん」

佑さんはすっかり聞きモードになっていて、私をじっと見つめている。
ああ。こういうところは、私の好きなお兄ちゃんのまんまだ。

「やっぱり嫌だって思ったのは。私がお見合いの相手だったら、女の子を連れてこられたら嫌だなって思うからだよ。もし本当に恋人がいるのが理由だとしても、一対一で話し合って断るべきだと思う」

「うん」

「それに、私は普段こんなお嬢様みたいな格好しないの。騙すみたいなのは嫌」

口紅をぐいと手で拭う。
さっきまで別人みたいに綺麗だったのに、今すごい顔になっちゃってるんだろうなぁ。

きっと佑さんも呆れてる。
融通の利かない、子供みたいな私。でもそれが私だもん。仕方ないよね?
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