偽装恋人などごめんです!
佑さんは頭をガシガシとかきまわしたかと思うと、ものすごく深いため息をついた。

あーあ。初恋はやっぱり実らないんだよねぇ。
久しぶりの再会で胸は躍ったけど、やっぱり器用じゃない私には恋人のふりなんて無理。

「だから、ごめんね。佑さん」

これで佑さんはもう私にかまう理由がなくなる。そう思ったら、じんわり涙がにじんできた。

しかしその後、起きたことは予想外だった。
深ーいため息をもう一度繰り返して、佑さんはいきなり頭を下げた。

「……ごめん。野乃」

「え?」

「嘘ついてたんだ、俺」

「は?」

なんだなんだ? 意味が分からない。
とりあえず顔を上げてもらうと、口を真一文字にした情けない表情がお目見えする。
なんかよく分からないけど、その普段見れないような顔に胸がきゅーっとなった。

「本当は見合いなんかない。今日の夜の親睦会は、親父とおふくろがいるだけ」

「はぁ? じゃあ恋人のふりなんてする必要ないじゃない」

「親父たちに、恋人として野乃を紹介したかったんだよ」

「は?」

ますます混乱するのですが。
猜疑心満載で、じーっと顔を見つめていたら、突然笑われた。
何だよ、失礼だな!

「ごめん。野乃、化粧すごいことになってる。説明するから落としておいで」

「はい」

洗面台に向かったら、たしかにすごい顔になっていた。
口紅が広がって、口裂け女みたいだ。
洗顔をして、ついでに部屋着に着替えて戻ると、佑さんは部屋の中央でおとなしく座って待っていた。
なんだか子犬みたいだな、なんて。大人の男の人には申し訳ないことを考える。

< 16 / 31 >

この作品をシェア

pagetop