偽装恋人などごめんです!

「まず。親父から結婚しろと迫られていることは本当なんだ。俺、一応跡取りだから、いろいろ縁談とかも舞い込んでくるのもまあ事実で」

まあ、そうでしょうね。だからお姉ちゃんにも恋人のふりを頼んだりしたのだろうし。

「だけど、香乃の結婚の話がおばさん経由で知れ渡ってしまって、香乃が偽装恋人だったことがバレちゃったんだ」

「前も思ったけど、佑さんって結構迂闊ですよね」

隣の家なんだから何でもすぐばれるに決まってるじゃん。

「まあ、そこは気にしないでくれ。……で、なぜそんなに結婚を嫌がるんだと言われて、俺もハタと考えたわけだよ」

「はい」

「仕事が充実している……はあるけど、それだけが理由じゃない。出会う女出会う女、なんというかピンとこないんだ」

贅沢な意見が来たな。モテるから言えることだよ? それ。
私くらいだと、告白されただけで舞い上がって付き合ったりするよ?

「で、じゃあ、ピンとくる女ってどんな人かって考えてみたら……恐ろしいことに気づいたんだ」

「ど、どんなことですか」

ごくりと唾を飲み込んで、佑さんの答えを待つ。
彼は口もとを押さえたまましばらく黙りこんだ。
何? そんなに恐ろしいこと?

たっぷり長い沈黙の後、佑さんはようやく重い口を開いた。

「……野乃だった」

「は?」

「初めて女にいいな、とか、かわいいなって思ったの。野乃だったんだよ」

「はぁ?」

開いた口が塞がらない。
え? 何? 私今何を聞かされてるの?
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