偽装恋人などごめんです!

それから何年も経ち、俺と隣家の姉妹もあまり会うことが無くなっていた。
俺はひとり暮らしを始め、それなりに恋もした。
だが結婚をと言われれば、あまりにピンとこない。この女性が一生隣にいるのかと思うと、どこか違和感がある。
ひと言でいえばハマらないのだ。パズルのピースがかちっとはまったときのようなあの感覚がない。

だが一人息子の俺の結婚は親にとってみれば大問題であり、見合いは次々と持ち込まれる。
そんなときに再会したのが、香乃だった。

「あれっ、佑さん?」

「……香乃ちゃん?」

見合い先のホテルで、香乃は彼氏とスイーツバイキングとしゃれこむところだったらしい。
だがその相手が遅れているらしく、始まったのはいら立ちのマシンガントークだ。

「まあまあ、落ち着けって」

「だってさぁ。何かにつけてルーズなの、あの人。どうかと思う~」

「いつも許しちゃうからだろ。たまには怒って痛い目見せてやればいいんじゃないの」

「痛い目ねぇ……。そっかじゃあ、佑さんちょっと手伝ってよ」

そう言うと香乃はすっと腕を組んで、親し気に微笑む。彼女は両親の顔からいいとこどりをしたな、と思えるほど、あの一家の中で一番美しい造作をしている。俺だって一瞬ドキリとしてしまったくらいだ。

「おい、香乃」

「私が他の男に目移りすることだってあるんだって、思い知らせてやるわ!」

だが、そんな俺たちを見つけたのは、俺の見合い相手の方が先だった。
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