偽装恋人などごめんです!
そんなことを思い出してグラスを傾けていると、佑さんが急に私をのぞき込んでくる。

「すっかり可愛くなったね」

「お世辞はいりません。皆があそこの姉妹は月とスッポンって言ってるの、知ってるんですから」

親の遺伝子の取り合いで負けたのか何なのか知らないけど、お姉ちゃんは美人で私は平凡。
比べられるのは昔から。それでも、年の差があったから卑屈になるほどではなかった。
実際、お姉ちゃんは綺麗で優しくて、私にとっていい姉だったし。

ちらりと、ワインを飲む佑さんに目をやる。
佑さんは、昔から格好良かった。勉強も出来たようだし、バスケでは花形選手だったと聞いている。
三十一歳の今だって、百八十cmの高身長にピンと伸びた背筋。凛々しい眉にすっと通った鼻で、昭和男子という感じのりりしさがある。
学生のときは爽やか好青年って感じだったけど、今はもっと渋い感じだわ。

「……佑さんはおじさんになりましたね」

心の中ではガンガンに褒めているけど、悔しいから口には出さない。私に勝てるのなんて若さだけだからね。

「うわ、言うなぁ。それにしても、もう大学も卒業したんだよね。今どこに勤めてるの?」

「ホテル・グラントの厨房にいます。一応フードコーディネーター目指してるんだけど。今はまだ下働き」

「うっそ。野乃が? 初めての料理が“塩コショウおにぎり”の野乃が?」

「そんな黒歴史は忘れてください! 今はすっごい料理が作れるんですからね! 大学だって……」

「食物栄養学科だったよね」

「なんだ知ってるんじゃないですか」

佑さんは楽しそうに笑う。こうやっていっつもからかってくるんだから。ムカつく。
それが嬉しかったり楽しかったりするから、余計ムカつくんだわ。
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