偽装恋人などごめんです!
何を今さらって感じだ。まあ、佑さんにとって、私は妹みたいなものなんだろうけど。
実は私の初恋は、佑さんだったんだけどね。余りにも身の程知らずだから、絶対に言わないけどさ。

座ってグラスを傾ける佑さんには、やがて継ぐ会社もあり、今も部長という肩書がある。
見た目はカッコいいし、性格だって優しいほうだ。
佑さんなら、相手に困ることなんてないだろうに、どうしてまだ結婚していないんだろう。

考え事をしながら飲んでたら、少し飲みすぎてしまった。
本気で酔っ払う前に、親族として姉の友人に挨拶してこないと。

「佑さん、私、あいさつ回りに行ってきます」

立ち上がった瞬間、手首を掴まれた。何事かと振り返れば、真剣な顔でこっちを見ているじゃないか。
やめてよ、ドキドキしちゃう。
そういうの顔に出さないようにするのって、結構大変なんだからね。

「野乃ちゃん、連絡先交換してくれないかな。頼みがあるんだ」

「は、……はい?」

スマホを出して、番号交換をする。

「今度連絡するね」とウィンクされた瞬間は、図らずも恋の予感にときめいた。

しかし数日後、内容を聞いて、ときめきは遠くに吹っ飛んだ。

「見合いをぶち壊したいから、恋人のふりをして欲しいんだ」

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