偽装恋人などごめんです!
佑さんは結婚願望が無いらしい。
だけど会社の御曹司である彼を心配して、お父様である社長は、ことあるごとに親睦会と称して佑さんに女性を紹介しようとするのだそうだ。
三年くらい前にも、それが酷い時期があって、何度かお姉ちゃんに恋人のふりをしてもらったらしい。
対価は当時遠距離中の彼氏に会いに行くための旅費だって。お姉ちゃんも図々しい。……ってか、彼氏がいるのに他の男の恋人のふりをするって! モラルはどこに落としてきたの。
「いや私、そういうのよくないと思いますよ。そんな回りくどいことしてないで、結婚する気ないならないって言って断わればいいじゃないですか」
「冷たいこと言わないで頼むよ、野乃。この通り」
だから。
私に頭を下げられるなら、見合い相手にも下げられるでしょうが。
一度は断った。しかし佑さんは懲りずに何度も電話してきて、今日はついにアパートまでやって来た。
住所まで教えた覚えはないのに。一体誰が裏切ったのか。お姉ちゃんか。
目の前に服や靴の入った紙袋を出し、懇願する佑さんを前に、私、陥落直前です。
ああ。佑さんがこんなヘタレだとは知らなかった。
そりゃその年まで結婚していないはずだよ。