溺愛アフロディーテ 地中海の風に抱かれて
私は気になったことを聞いてみた。
「あの、ミケーレさんは、仕事をしなくてもいいんですか?」
「仕事って?」
「船員さんなんでしょう?」
「違うよ。僕の船だってば」
結局話がもとに戻ってしまった。
私の聞き方が悪かったのかもしれない。
「じゃあ、ミケーレさんは何をしている人なんですか?」
「職業ということ?」
うなずく私に彼は微笑みを返した。
「うーん、そうだね。一言では言い表せないな。簡単に言えば社長かな」
社長?
「僕は金融グループを中心とする財閥の経営者なんだ」
ミケーレは流暢な日本語で話している。
でも、私の方が理解できないでいた。
「財閥?」
「銀行、証券、流通、発電、貿易、重化学工業……、とにかくいくつもの会社を束ねる複合企業の経営者というわけさ」
全部日本語だけど、全然意味が分からない。
さっきコーヒーを運んできてくれた船員さんが焼きたてのピザを運んできてくれた。
モッツァレラとバジルのシンプルなマルゲリータだ。
「どうぞ。この船の石窯で焼いたものだよ」
これもまた日本で食べていた物と香りからして違う。
「あ、そうそう。このモッツァレラはうちの牧場で作っているものだよ」
もしかして、私、今夢でも見ているのかな。
急に目の前の光景が現実味を失って、頭がぼんやりしてしまった。
ミケーレの声が遠のいていく。
「大丈夫かい?」
気がつくと彼が私の隣に腰掛けて顔をのぞき込んでいた。
ものすごく近くて、顔が熱くなる。
「あ、ええ……」
私は曖昧な笑みを浮かべてごまかした。
「なんていうか。現実感がなくなってしまって」
「つまり、僕の話が信じられないってこと?」
「ああ、いえ、そういう意味ではないんですけど」
「何度聞かれても同じだよ。僕は財閥の経営者。そして、これは僕の船」
窓の外を見ると、ものすごい勢いで船は波の上を滑るように進んでいく。
高速ジェット船というものだろうか。
僕は財閥の経営者……。
これは僕の船……。
言葉では理解しているつもりでも、ミケーレの顔を見ると全てが吹き飛んでしまう。
もちろん、彼が嘘をついているとは思えない。
これは現実なんだろう。
私はとんでもない人と知り合ってしまったらしい。
普通なら絶対に会うことすらできない雲の上の人なんだ。
でも、やっぱり私にはまったく実感のわかない現実だった。
私は必死にそれを受け入れようとしていた。
いつの間にかまたぼんやりとしてしまっていて、気がつくと、そんな私を見てミケーレが微笑んでいた。
彼は立ち上がると、私の頭をポンとなでた。
「カプリまではあと三十分くらいだから、自分の船だと思ってゆっくりくつろいでいてよ」
「あの、ミケーレさんは、仕事をしなくてもいいんですか?」
「仕事って?」
「船員さんなんでしょう?」
「違うよ。僕の船だってば」
結局話がもとに戻ってしまった。
私の聞き方が悪かったのかもしれない。
「じゃあ、ミケーレさんは何をしている人なんですか?」
「職業ということ?」
うなずく私に彼は微笑みを返した。
「うーん、そうだね。一言では言い表せないな。簡単に言えば社長かな」
社長?
「僕は金融グループを中心とする財閥の経営者なんだ」
ミケーレは流暢な日本語で話している。
でも、私の方が理解できないでいた。
「財閥?」
「銀行、証券、流通、発電、貿易、重化学工業……、とにかくいくつもの会社を束ねる複合企業の経営者というわけさ」
全部日本語だけど、全然意味が分からない。
さっきコーヒーを運んできてくれた船員さんが焼きたてのピザを運んできてくれた。
モッツァレラとバジルのシンプルなマルゲリータだ。
「どうぞ。この船の石窯で焼いたものだよ」
これもまた日本で食べていた物と香りからして違う。
「あ、そうそう。このモッツァレラはうちの牧場で作っているものだよ」
もしかして、私、今夢でも見ているのかな。
急に目の前の光景が現実味を失って、頭がぼんやりしてしまった。
ミケーレの声が遠のいていく。
「大丈夫かい?」
気がつくと彼が私の隣に腰掛けて顔をのぞき込んでいた。
ものすごく近くて、顔が熱くなる。
「あ、ええ……」
私は曖昧な笑みを浮かべてごまかした。
「なんていうか。現実感がなくなってしまって」
「つまり、僕の話が信じられないってこと?」
「ああ、いえ、そういう意味ではないんですけど」
「何度聞かれても同じだよ。僕は財閥の経営者。そして、これは僕の船」
窓の外を見ると、ものすごい勢いで船は波の上を滑るように進んでいく。
高速ジェット船というものだろうか。
僕は財閥の経営者……。
これは僕の船……。
言葉では理解しているつもりでも、ミケーレの顔を見ると全てが吹き飛んでしまう。
もちろん、彼が嘘をついているとは思えない。
これは現実なんだろう。
私はとんでもない人と知り合ってしまったらしい。
普通なら絶対に会うことすらできない雲の上の人なんだ。
でも、やっぱり私にはまったく実感のわかない現実だった。
私は必死にそれを受け入れようとしていた。
いつの間にかまたぼんやりとしてしまっていて、気がつくと、そんな私を見てミケーレが微笑んでいた。
彼は立ち上がると、私の頭をポンとなでた。
「カプリまではあと三十分くらいだから、自分の船だと思ってゆっくりくつろいでいてよ」