溺愛アフロディーテ 地中海の風に抱かれて
 ミケーレがそっと私の手を取って両手を重ねた。

「美咲はカプリ島がすばらしいところだと思ったから、ここまでやってきたんだろう」

 え?

 急に話がそれて、ただうなずくことしかできなかった。

「僕はイタリア人だ。この辺りは僕の生まれた地域だし、僕もカプリ島が大好きだよ。だから、美咲にもその良さを堪能してもらいたいんだ。お返しなんていらないよ。ほら、日本人がよく言っている、あれだよ」

 あれって?

「お・も・て・な・し」

 思わず笑ってしまった。

 私の表情を見たミケーレも微笑みを浮かべてくれた。

「じゃあさ、こうしよう。僕が日本に行ったときに、美咲がおもてなしをしてくれ。それならいいだろう?」

 それはいいんだけど、なんだか別の意味で大変そうだ。

 私みたいな庶民ではお金持ちの人が楽しむようなところに案内することなんてできない。

 京都の御茶屋さんとか、そもそもどこにあるのかすら知らない。

「おもしろいところを案内できる自信がないんですけど」

 ミケーレが軽く私の肩に手を置く。

「美咲、もっと自信を持っていいんだよ。僕は君が案内してくれるところなら、近所の公園でも、コンビニでも、ファミレスでもなんでもいいんだよ。どれもイタリアにはないものだからね。ありのままの君が一番さ」

 ありのままの君が一番さ。

 うわ、やっぱりチャラい。

 こんなセリフ、さらりと言ってのけるなんて、やっぱりイタリア人なんだな。

「それとも、あれかな……」

 答えを言いあぐねている私の顔をのぞき込みながら彼がウインクした。

「やっぱりカラダで払ってもらうのが一番手軽かな」

 正直ちょっとムッとした。

 そんな私を見て彼が人差し指を立てた。

「最低のジョークだろ」

 そして彼は私に顔を近づけてきて、耳たぶに軽く口づけた。

「失礼なことを言ってすまなかった」

 私の耳元でそっとつぶやくと、ミケーレはまたキャビンを出ていった。

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